設置科目の概要
基礎共通科目
●基礎講読演習Ⅰ
「コア・エシックス1(ベーシック・エシックス)」
本科目は倫理学の正統的な問題構成の方式を批判的に検討することを目的とする。英語、日本語のテキスト(論文)の集中的な講読と小報告、討議によって進める。
近現代の倫理学は、基本的な原則の応用によって個別的問題に解答するという発想を軸に展開してきた。しかし、現在の道徳的危機は、この思考法の限界を示している。それに呼応するように、哲学、倫理学の内部からも、道徳の原理や法則を立てることを急ぐのではなく、人間の生の事実を、感情や徳といった経験に即した概念によってとらえなおす動きが生じている。経験主義の出発点としての功利主義を中心に、倫理学の問題の系譜を検討し、道徳的思考の基盤を養い、批判の視角を鍛える。
●基礎講読演習Ⅱ
「コア・エシックスⅡ(グローバル・シヴィル・ライツ)」
本科目は市民権の概念を批判的に再検討することを目的とする。英語、日本語のテキスト(論文)の集中的な講読と小報告、討議によって進める。
基本的人権と異なり、市民権は政治的共同体の構成に関連する権利であり、従来は基本的に国家単位で考えられてきた。しかし、グローバル化によって、市民権を国家という枠を超えたところで考えることが必要となりつつある。それはとりもなおさず、国家とは別の政治的共同体を構想することを意味する。いま、市民権の概念が迫られている変容と、新たなる政治的共同性の創出の必要性について、エスニシティ・ジェンダー、セクシュアリティなどとの関連も踏まえつつ検討する。
●基礎講読演習Ⅲ
「コア・エシックスⅢ(サステナビリティー)」
本科目はサステナビリティー(持続的生存・発展)の倫理的側面を検討するための基礎の修得を目的とする。英語、日本語のテキスト(論文)の集中的な講読と小報告、討議によって進める。
人間が自然環境を支配してきた過程の意味の科学的理解と、地球環境においてサステナビリティーを保障するための道徳といった主題について、多様な世界観と自然環境に対する倫理的立場、循環性・自律性・多様性などのサステナビリティーの保障条件、そして倫理観と道徳観の重要性を中心に検討する。大気、土壌、水文、生物等、生命を支えるエネルギー系および生態圏の総合的分析、生物圏の特徴から見た生、死、災害、生存、進化および遺伝子情報の分析、人間社会の特徴、ニーズおよび開発と保全の両立等、科学技術的側面も重視して検討する。
●応用講読演習Ⅰ
「公共論テキスト研究」
厳選された基本テキスト(論文)の集中的な講読によって、国民国家の変容と公共概念の変化を検討する。
公共の概念の発生と変容のプロセスを、法学、政治学.社会学等の諸領域を横断する視点で広く収集し講読し、相互に関連づけながら再構成する。公共概念の基本的な枠組みとなっている国民国家の形成過程をふまえながら、現代におけるその変容と公共概念の変化の関連を基本テキスト(論文)によって検討する。具体的には、受講者個々人の関心から選ばれたテキスト(論文)を、全体的討議のなかで検討をする。
●応用講読演習Ⅱ
「公共フィールド研究」
厳選された基本テキスト(論文)および方法論の集中的な講読によって、科学・技術・社会が交錯する場における公共性の問題を科学史の視点から検討する。
現代においては、科学・技術・社会の交錯する場は公共性が問題となるフィールドとなっている。予防医学および公衆衛生における公共の利益と人権の対立、薬害・公害・医療被害における官公庁・産業セクターと市民の対立、先端生殖医療における倫理と個人の生殖権の対立等、科学・技術と身体をめぐって公共性が問題となる争点について、歴史資料調森と現代社会の取材をつうじて考察する。具体的フィールドを選んで徹底的に検証するとともに、社会のネットワーク形成を視野に入れた、市民に根ざした新たな公共性実現の可能性を探る。
●応用講読演習Ⅲ
「生命論テキスト研究」
哲学・思想を中心に自然科学も含む広範な範囲から厳選された基本テキスト(論文)の集中的な講読によって、現在、必要とされる生命論の基礎を修得する。
生命科学や生命技術や医療技術の進展によって、生命・老化・病気・死に関わる領域は劇的な変貌を遂げつつある。その進展の最先端を記すテキスト(論文)と、その進展に対応する生命論を開発する上で有用なテキスト(論文)を哲学・思想の領域から厳選して輪読することによって、最新の議論に参加するための基礎知識と基礎理論を修得する。そして、自然科学と医学の基礎的な用語と概念に通暁した上で、哲学・思想を基軸としながらより広い領域においてそれを精確かつ創造的に応用することを目標とする。
●応用講読演習Ⅳ
「生命環境フィールド研究」
厳選された基本テキスト(論文)および方法論の集中的な講読によって、現在、必要とされる生命の視点から見た環境論の基礎を修得する。
生命の視点から見た環境をめぐる問題に関わるテキスト(論文)や資料の講読とともに、問題の所在をより深くとらえ具体的に研究するためにフィールド研究をおこなう方法論を修得する。農林水産事業や開発による土木工事等の現場、さらに環境保全の対象となっている里山や河川や海辺等を訪れ、地域住民とも交流しながら、生命と環境の関わりをどのようにとらえるか、人間はそこで何をすべきか、あるいはすべきでないのかを研究するための方法論を修得する。
●応用講読演習V
「共生論テキスト研究」
英語表現による文学作品を中心に厳選された基本テキスト(論文)の集中的な講読によって、現在、必要とされる共生論の基礎を修得する。
西洋を中心とした近代化と植民地化の過程において、また、近年におけるグローバルな安全保障秩序の成立とともに、さまざまな文化や少数言語が隠蔽・抑圧・誤読・翻訳されてきた。これらの文化および言語と、西洋を発信地とする普遍主義によって教育された近代知識人の表現とのあいだの断絶を見るために、英語表現の文学を中心にさまざまな文学テキストを輪読する。時には暴力的な過程でもあった近代化、植民地化、そしてグローバル化を、文学テキストはどう表現してきたのかを考えることは、単なる現実の再現という意味におけるリアリズムではない表現の意味に光をあてる作業となる。
●応用講読演習VI
「共生フィールド研究」
厳選された基本テキスト(論文)および方法論の集中的な講読によって、現在、必要とされる多文化、多言語、多宗教共生の視点から見た共生論の基礎を修得する。
共生に関わる現代的な問題に接近するために、生活形態、宗教、民族、性差に根ざす具体的な争点に注目し、これらの諸側面の連関のあり方を分析するための視点を修得する。具体的にはオスマン帝国史における多民族、多言語、多宗教の共存のシステムや、遊牧民、村民および都市民の有機的連関、さらにはイスラーム共同体を意味するウンマと呼ばれる世界観などを考察する。加えてフィールド研究の方法については、今日のトルコ共和国における遊牧社会出身者の社会経済活動やブルガリアにおけるトルコ人およびブルガリア人の共生等を題材に方法論を中心に修得する。
●応用講読演習Ⅶ
「表象論テキスト研究」
美術史・芸術論を中心に厳選された基本テキスト(論文)の集中的な講読によって、現在、必要とされる表象論の基礎を修得する。
従来多くのアカデミックな方法論では、芸術は一個の超越的な手腕によって完成される世俗を超えた作品によって体現されるものとみなされてきた。そこでは浄化された静的な意味の構造の発見が探求される。芸術を、人間の歴史において常におこなわれる「生の形象化」への挑戦、それが可能か不可能かを問う行為としてとらえるとき、それは状況に促され常に更新される問いを内包した表象として顕われる。芸術の歴史的・現在的検証の蓄積の上に立った表象論の基本を把握するためのテキストを用いて、講読と議論を中心に進めていく。
●応用講読演習Ⅷ
「表象デザイン研究」
映画史研究を基軸に厳選された基本テキスト(論文)の集中的な講読によって・現在、必要とされる表象論におけるデザイン研究方法論の基礎を修得する。
20世紀には、映画、映像技術の発達によって、時間を軸とした記録、再現、再構成を可能にする記録メディアが生まれ、多くの映像記録が残された。さらに作品、記録のアーカイヴ機能だけでなく、時空間の情報の新しい解析技法や多様な表現手段、活用方法が出現した。21世紀には、ヴァーチャル・リアリティ等のディジタル情報技術がさらなる進展をとげ、自然科学と融合した新しい芸術表現や産業が生まれるだろう。さまざまなメディアを使って芸術表現とディジタル技術を融合させる芸術デザイン研究の新しい方法について学ぶ。
基礎専門科目
●公共論史
「公共論の過去と現在」
公共性という主題が第二次世界大戦後の日本社会において形成されてきた過程を、社会学的分析の視点から講義する。
とくに戦後になされた議論を辿り、公共論の過去と現在の意味を考える。社会経済システムとしての社会のあり方を変える可能性とその困難については、学問の領域だけでなく、様々な社会運動のなかでも自問され、論争された.この講義では、こうした学問的論争と社会運動史を引き継いで何を論ずることができるかを考える。いわゆる社会思想史のごく基礎的な知識をもっていることを前提とするが、必要に応じて同時代資料によって確認する作業もおこなう。
●公共論Ⅰ
「福祉制度論」
公共性の主題において核心的な問題となる福祉制度について経済学の視点から講義する。
近年めざましい発展を遂げている規範倫理学と厚生経済学の新しいパラダイム(不平等と貧困の経済理論、社会的選択とゲームの理論)をもとに、各国の社会保障制度と改革動向に関して、その規範的および機能的な特性を比較検討する。ここでいう「規範的な特性」とは、福祉の達成目標、個別性と不偏性のバランス、分配的正義、参加の自由等を指し、他方、「機能的な特性」とは、所与の制度と環境的条件のもとで、諸個人の自律的かつ相互依存的行動がもたらす効果や影響を指すが、これらの検討は、価値の多元性を特質とする現代民主主義社会で人々が理性的・公共的に受容しうるような福祉国家の規範と体系を構想することにつながる。
●公共論Ⅱ
「法・正義・民主主義」
公共性の主題において基本的な重要性をもつ規範理念について倫理学の視点から講義する。
「公共論1」が経済と社会を主たる土俵にしていることに鑑み、本講義は法および政治に照準して、公共性の規範理念である法、正義、民主主義を扱う。法に関してはルールや道徳との異同、法が目指す価値について考察し、正義に関しては、ジョン・ロールズの『正義論』(1971年)を契機に活発な論争が始まった現代正義論を素材としながら、社会のメンバーの自由、平等、福祉という目標の間にどのようなバランスをとればよいのかを追究する。民主主義については、その言葉の意義転換に注目しながら、現代の民主主義論の多様な展開を追いかける。
●生命論史
「生と死の表象」
生命という主題が形成されてきた過程を、近現代の哲学、思想を軸に多様な分野に眼を配りながら、とりわけ生と死の理解の変容を中心に講義する。
現代の生命科学と生命技術の進展に照らしながら、過去の生命論、過去の生命と死の表象の意義を検討する。とくに死や老化や病気と交錯する生命について主題化したテキストを取り上げ、批判的に再評価していくことになる。その際に、テキストとしては、哲学、宗教に関連するものだけではなく、古典的な自然学、近代的な社会科学に関連するものも取り上げることで、現代の諸問題を、歴史的かつ総合的に検討する観点を提示することを目標とする。
●生命論Ⅰ
「ジェンダーと生命」
生命の主題において基本的な重要性をもつ生殖技術の諸問題についてジェンダー論の視点から講義する。
先端医療技術の進展は遺伝子技術、生殖医療、移植医療を融合し、人間の誕生・生存・死の諸相と生物種としての人類のアイデンティティを根無から揺るがしている。この深刻な倫理問題に対処するには、生勤学・医学と社会が交錯する局面における人間身体の再生産問題を考究する必要があり、その際セックス(性〉およびジェンダー(性差)の概念が焦点となってくる。性と生殖への介入による人類改造を希求してきた優生学史の批判的検討と、近年、ジェンダー論・フェミニズム科学論の視点からおこなわれている身体の政治的・文化的意味の分析をふまえて、新しい生命倫理の構築を試みる。
●生命論Ⅱ
「生命と環境の再考」
生命にとって基本的な重要性をもつ環境の諸問題について生態学の視点から講義する。
生命の存在論は環境との関わりを抜きにしては考えられない。20世紀の生態学とその周辺の理論の展開を、その歴史的背景や思想・哲学との関連も見据えながら整理する。とりわけ生物と環境をめぐるさまざまな相互作用がどのように認識されてきたかを検討し、人を含めた多様な生物の存在論の現在を浮き彫りにする。現代の生命・環境をめぐる危機が本質的にどのような問題であり、環境の保全・回復や「持続可能な展開」の条件をどのように措定できるか、生態学の基本的な視座から出発して広く講義する。
●共生論史
「主題としての共生」
共生という主題が形成されてきた過程を、近現代の思想と表現を軸に多様な分野に眼を配りながら、とりわけ社会学の方法を中心として講義する。
共生は、差別、排除、同化、領有、支配などの権力的関係に抗して、構想され、論及されてきた.およそすべての書字資料、絵画、建築資料に潜在するといっても過言セない共生的主題を、比較史的に探究するとともに、とりわけ現代の近代化・地球化の過程で、友愛、歓待、隣人愛等、共生の主題が呼び出されるようになったのはなぜかを考える。政治、宗教、文学、美術などの諸領域を横断する作業は、そのまま精神史の方法論の刷新をも意味することとなる。
●共生論Ⅰ
「人類学的共生論の研究」
共生の主題がとりわけ重要性をもつ旧植民地地域の諸問題について人類学的視点から講義する。
20世紀の初めからフィ-ルドワークを基本的な方法として発展した文化人類学は、二重の意味で共生のテやマを内包してきた。第一にフィールドとされた社会は、現実には植民地として支配された地域であり、共生の場を複合的な力関係のせめぎあいの場と定義する限りで、まさに異質な人間集団がせめぎあう共生の実験場であった。第二にフィールドとされた社会の多くは、大量のエネルギー消費を前提として成立する「先進国」とは異なる、周辺環境との共生を基礎として生活を構築するタイプのものであった。共生論にいかなる寄与ができるかという視点から、人類学を再検討し共生論の基礎づけに活用する。
●共生論Ⅱ
「多文化主義研究」
民主主義や福祉制度に代表される普遍的な原理の探求を目指して成立した市民社会にとって、共生の主題はどのような意味をもつのかについて、とりわけ政治哲学の視点から講義する。
人種・民族・国家体制間の軋轢の時代とも回顧されるのが20世紀であったとすれば、21世紀は希求されてきた多文化主義が実現される時代といえるのだろうか。多文化主義と多言語主義は果たして共生の原理たりうるのか。政治的多元主義あるいは政治的寛容は共生の原理となりうるのか。そうした基本的な問題を政治哲学の課題として検討する。
●表象論史
「表象の近代と現代」
表象論は研究対象として視覚的イメージだけでなく、音響表現、身体表現等、多様な表現法を包摂し、それらに総合的な方法で接近する新たな分野である。この科目では、表象という主題が形成されてきた過程を、近現代の美学・芸術学の歴史を軸に多様な分野に眼を配りながら講義する。
表象の理論的展開を、美的表象を中心に美学・芸術学の歴史を論ずる。芸術はもともと人間社会における宗教的儀礼と不可分離な関係で存在してきた。芸術、すなわち美的表象の自律性が自覚されるようになるのは、近代以降の事柄である.だがモダニズムの終焉が語られる今日、芸術は自然との共生、生命倫理といった多角的な公共的視点から、総合的に論じられることになる。
●表象論Ⅰ
「日本芸能・文化伝承論」
表象論は研究対象として視覚的イメージだけでなく、音響表現、身体表現等、多様な表現法を包摂し、それらに総合的な方法で接近する新たな分野である。この科目では、日本の総合芸術である伝統芸能を対象に表象論の研究法を実践的に探求する。
京都は、日本的文化の集積地・倉庫としての役割を担わされている。これらの豊富な素材を有効に活用し、とくに人間の身体による表現や伝承手法について、芸術の実践者との連携を保ちながら実践型・体験型の文化・芸術論を展開する.絵画、舞台、教育現場、マルチメディア等、メディアミックス型の研究実践となる。
●表象論Ⅱ
「ディジタル・エンタテインメント研究」
表象論のこの科目では、ディジタル技術が生み出した娯楽がメディアの発展に寄与した過程を中心にディジタル分野における表象論を講義する。
メディアとしてのコンピュータが本格的に社会生活に登場し、真の意味で大衆化したのはテレビゲームが始まりであり、その後を携帯電話等のモバイル機器が追随している。テレビゲームはいうまでもなく、携帯電話も単なる仕事道具というよりは日常的なコミュニケーションの道具、エンタテインメントの機器として普及している。ディジタルな双方向的なコミュニケーションの背後にある諸問題を解き明かし、なぜコンピュータの社会化がエンタテインメントから始まったのか、そしてそれは今後もメディアのあり方をリードしていくのかを検討しつつ、ディジタル分野の表象論を研究する。
●特殊講義Ⅰ
「民主主義と安全保障」
特殊講義は公共、共生、生命、表象の多くの領域にまたがって提起されている問題を、先端的に研究している担当者によって担当される。この科目では政治哲学の視点から講義する。
真の民主主義国家における安全保障とはいかなるものか。国民国家に生まれた者には市民権があり、福祉を享受できるが、内戦等で生まれた「難民」という存在には市民権が認められない。すなわち主権国家は「難民」に対しては人権の保障義務を放棄している。古代ギリシアにおける内戦の政治的メカニズムと今日の「民主主義国家」におけるテロと安全保障の関係とを比較検討しながら、今日の主権国家の問題点を浮き彫りにし、民主主義政治の課題を明らかにする。
●特殊講義Ⅱ
グローバル・ジャスティス」
特殊講義は公共、共生、生命、表象の多くの領域にまたがって提起されている問題を、先端的に研究して一いる担当者によって担当される。この科目では社会哲学の視点から講義する。
国際問題および社会的、経済的発展をめぐる諸議論における規範的判断に関する論点を検討する。ロールズやセン等によるいくつかの基本的理論を整理し、これらの理論と、現実に存在する国際的分配的正義、人権、戦争や介入、環境、ジェンダー、難民等の問題に適用しながらグローバル・ジャスディスとはいかにあるべきかを考察する。これらの考察には、とくに地球の温暖化防止条約、旧ユーゴスラヴィアに対するNATOの空爆やブラジルの熱帯雨林保護政策等を具体的な事例として取り上げる。
●特殊講義Ⅲ
「生命科学研究と生命倫理」
特殊講義は公共、共生、生命、表象の多くの領域にまたがって提起されている問題を、先端的に研究している担当者によって担当される。この科目では生命科学研究論の視点から講義する。
クローン技術、ヒトゲノム解析、幹細胞研究等に見られるように、現代の生命科学は新しい医療技術をもたらすと同時に、さまざまな倫理的・法的問題を引き起こしている。それらの問題を考える際には、科学研究自体に関する知識と、科学研究を取り巻く社会システムの両方に関する知識が必要になる。本講義では、(1)生命科学の歴史と現状、(2)生命倫理および研究焼制の歴史と現状、(3)専門家と市民のコミュニケーションこという3点について事例を取り上げながら検討し、現代社会における科学研究のあり方を議論する。
●特殊講義IV
「異分野融合を導く脱アートの時代」
特殊講義は公共、共生、生命、表象の多くの領域にまたがって提起されている問題を、先端的に研究している担当者によって担当される。この科目ではメディア表象論の視点から講義する。
ブロードバンド時代のコンテンツ不足、都市開発と住民参加のあり方、最先端科学・ポストゲノム技術の影響、現代という先行きの不透明な時代の教育の使命、情報格差の拡大等、現代社会の構造的課題は山積している。解決への道は、「環境・生命・情報・教育」を縞合的に考え、分野問をつなぐメディエィター(媒介者)の予見能力と解決への試みに求められる。その役割を20世紀の「反抗する芸術」から21世紀の「生命を織り成す芸術」へと変貌した最先端美術が担い始めている。そのあり方をビデオレクチャ-により視覚的なメディアを提示しつつ講義する。
サポート科目
●ディジタルデザインⅠ
「知識リソースデザイン」
スキル養成を目的とするディジタルデザインⅠ、Ⅱ、ⅢではIT機器を用いたハイグレードなデータ処理について修得する。
ディジタル環境下でのデザイン能力には、現実社会に存在するアナログ情報と、ネット上に点在するディジタル情報を編集し、新しいディジタルコンテンツとして自分のアイデアを具体化するスキルが求められる。この科目では、IT演習室での実習作業を通して、WWWの仕組みを使った情報収集と加工を効率よくおこない、最終的にWbb上での新しい知識リソースとして発信するまでの、実践的デザイン能力を身につけることを目指す。
●ディジタルデザインⅡ
「コミュニケーションデザイン」
スキル養成を目的とするディジタルデザインⅠ、Ⅱ、ⅢではIT機器を用いたハイグレードなデータ処理について修得する。
ディジタルデザインⅠに続き、自分のアイデアをディジタルコンテンツとして具体化するスキルについて学ぶ。ここではとくに、各受講者の研究テーマに直接役立つインタラクティブなコンテンツ作成および編集の技術について学んでいく。まず、既存のコンテンツや作品を参照し、そこに使われている技術やコンセプトについて学ぶ。その後、自ら収集した資源やデータを新規な概念に基づいた創造性開発の視点から、コンテンツに仕上げる作業プロセスを通じて、創造的なディジタルデザイン能力を身につけることを目指す。
●ディジタルデザインⅢ
「映像アーカイヴデザイン」スキル養成を目的とするディジタルデザインⅠ、Ⅱ、ⅢではIT機器を用いたハイグヒードなデータ処理について修得する。
この科目は、映像中心の情報社会に求められるディジタルデザインをテーマに、ディジタル放送やDVD-Video等のインタラクティブ映像からコンピュータグラフィックスまで、高度な業務水準を目指したディジタル映像のディレクション、撮影、編集、制作等について総合的に学ぶことを目的とする。ディジタルアーカイヴに必要な、クオリティ重視の制作実習作業を通して、ディジタルデザイン制作における、プロフェッショナル思考の向上と、制作技術や企画力のスキルアップ、映像表現に必要なデザイン能力を身につけることを目指す。
●アカデミックライティングⅠ
「英語ライティングⅠ」
アカデミックライティングⅠ、Ⅱ、Ⅲでは、英語による文章、文書作成の実践的な能力の養成を目的とする。
アカデミックライティングⅠは、調査研究や論文作成の基礎となる英語表現技術の修得を目標とする。連携する講読演習科目で課せられたテーマで、みずから研究計画を作成し、じっさいに5,000語程度の英語論文(リ’サーチ・ペーパー)を作成する.書誌データベースや抄録誌等の利用法、先行研究資料のノート・テイキングとその整理、論文のアウトライン作成、執筆、推敲等を実習し、論理的な文章展開に必要な英語表現や修辞の基本(原因・結果、比較対照、分類、例示等)、適切な引用の仕方、標準的な書式等を学ぶ。
●アカデミックライティングⅡ
「英語ライティングⅡ」
アカデミックライティングⅠ、Ⅱ、Ⅲでは、英語による文章、文書作成の実践的な能力の養成を目的とする。
アカデミックライティングⅡは、実用的な英文作成をつうじて、高度専門職の諸研究プロジェクトに幅広く役立つ英語による文章表現力を高める。連携する講読演習科目の小課題として課せられた書評・作品論等2点を英語で執筆することをつうじて、効果的な導入やつなぎ表現(transitions)、予想される反論に予め応える(preemption)等の修辞を実習し、クリティカル・ライティングの技法を身につける。あわせて、海外の図書館や研究者宛ての照会状(恥X文書、電子メイルを含む)、メーリングリストヘの投稿等の英作文を指導する。
●アカデミックライティングⅢ
「英語ライティングⅢ」
アカデミックライティングⅠ、Ⅱ、Ⅲでは・英語による文章・文書作成の実践的な能力の養成を目的とする。
アカデミックライティングⅢは、博士論文とそれに関連する文書の作成を念頭におき、教育研究職を目指す者に有用な様々な英文作成を実習する。博士論文の研究計画書と、それに付す先行研究の書誌解題を英語で作成することをつうじて、専門的語彙を適切に用い、効果的な文章構成を工夫して、各自の専門領域における高度な学術的文章を英語で自在に作成できる力をつける。あわせて、履歴書や推薦状、研究助成を得るための提案文書等の作成を通して、豊かな英語表現力と論理的かつ説得的な文章表現力を身につける。
●アカデミックライティングⅣ
「日本語論文の構築」
アカデミックライティングⅣでは、現代日本語の文章表現とりわけ論文の文章規範について検討し、文体意識を修練する。
この科目は、実技としての書き方というよりも、読み方、構成の把握の仕方、文章にいたるまでの過程の読み取り方を考えさせ、そこで考えたことを自分の文章作法に生かさせるという視点から、行間・紙背の読み取り方を軸に組み立てる。具体的にはいくつかの本あるいは論文を指定しておいて、その組み立てを読み解き、自分が書くときに応用できるようにするということを狙いにする。現代日本語の散文にどのように普遍性をもった「理」を盛りこむかという大きなテーマで文章の読み方と書き方を考える機会とする。
●リサーチマネジメントⅠ
「リサーチ・メソッドの基礎」
研究方法および研究運営におけるスキル養成を目的とするリサーチマネジメントⅠ,Ⅱ,Ⅲでは研究データの獲得、共有化、実践化について修得する。
リサーチマネジメントⅠでは、先端総合学術研究科の研究領域に必要な現場の文化を知り当事者の声を聞くための方法を修得する。すなわち、現場でリサーチしてその成果を学問の名に値する知識として発信するための方法を学ぶ。佐藤が担当するフィールドワークでは、主として観察に基づく仮説生成と土スノグラフィの作成を、抱井の担当するインタビューでは、相手との関係の取り方を含む質問の構成法や記録の読解について、大川の担当するアンケートでは、項目作成法やその解析法について、それぞれ実習形式で修得を目指す。
●リサーチマネジメントⅡ
「知識マネジメント論」
研究方法および研究運営におけるスキル養成を目的とするリサーチマネジメントⅠ、Ⅱ、Ⅲでは研究データの獲得、共有化、実践化について修得する。
リサーチマネジメントⅡでは、組織や共同体において、知識がどのように形成・共有・創造されるかというテ}マについて議論し方法を修得する。まず、認識論や認知科学の議論をベースに、知識概念の思想的背景について整理する。その後、とくに企業組織や研究機関を対象としたナレッジマネジメントのあり方について議論する。最後に、自発的な関係性を基盤としたネットワーク型コミュニティにおけるガバナンスと知識創造のあり方について実践的に修得する。
●リサーチマネジメントⅢ
「リサーチ・マネジメント事例研究」
研究方法および研究運営におけるスキル養成を目的とするリサーチマネジメントⅠ、Ⅱ、Ⅲでは研究データの獲得、共有化、実践化について修得する。
Ⅰがプロジェクト研究における知の獲得の方法、Ⅱが知の共有化の方法を研究するのに対してⅢでは、生産され共有された知を投入したプロジェクトが現実に展開される動態のなかで、どのような条件のもとで成功し、あるいは失敗するか、その成否の判断基準は何かを含めてケース研究をおこなう。産官学協同、受託研究、科学研究費等、研究資金のあり方も含めプロジェクトの形態やテーマ設定、分野別等の視点から事例研究をおこなう。カセムが全体の概要と科目の趣旨、まとめを担当し、赤池がユニバーサルデザインに関わるプロジェクトの事例を、加藤が東京の下町の町工場をアトリエとするアート作品制作のプロジェクトを事例として研究する。
プロジェクト予備演習
●プロジェクト予備演習Ⅰ
先端総合学術研究科の大学院学生は、3年次以降のプロジェクト演習におけるプロジェクト研究への参加を目標として、1年次後期からプロジェクト予備演習においてプロジェクト研究における共同研究の方法を修得する。
自分にとってのテーマは何であるのか、そのためには何を学ぶことが必要であり、何を調べ何を考えなくてはならないのか。まず、それをはっきりとしたものにすることが課題であり、教員はその作業を支援する。同時に、プロジェクトにおいて何が問われ,何が明らかにされようとしているのかを知り、それと自らのテーマとがどこでどのように繋がるかを見出す。プロジェクトは発見と連接のためのヒントが与えられる場としても機能する。
●プロジェクト予備演習Ⅱ
先端総合学術研究科の大学院学生は、3年次以降のプロジェクト演習におけるプロジェクト研究への参加を目標として、1年次後期からプロジェクト予備演習においてプロジェクト研究における共同研究の方法を修得する。
プロジェクトヘの参加形態は、個人分担分の成果発表というハードルが用意され第2段階に入る。プロジェクトでの議論の進行に刺激を受けつつ、短い時間の間に自らが獲得したすべてを持ちこみ、プロジェクト・メンバーによる批判と助言を受けることになるが、事前に担当教員との一対一の対話と小グループ内での討論が積み重ねられる。
●プロジェクト予備演習Ⅲ
先端総合学術研究科の大学院学生は、3年次以降のプロジェクト演習におけるプロジェクト研究への参加を目標として、1年次後期からプロジェクト予備演習においてプロジェクト研究における共同研究の方法を修得する。プロジェクト演習担当者によって指導されるプロジェクト予備演習Ⅲでは、プロジェクト予備論文の作成指導が主要な目的となる。この予備演習の最終段階では2年次前期までの研究成果を論文化する作業がなされる。これは博士論文執筆資格審査の対象ともなるもので、応用講読演習や特殊講義で得た知見も縦横に織りこみながら、自身の選ぶテーマ領域で核心的問題を提起することが必須となる。ここではもちろん単独の作業が必要とされる力轍員はその作業を支援する。
プロジェクト演習
●プロジェクト演習
「プロジェクト予備演習」を修了した3年次以降に展開する4つのテーマによるプロジェクト演習、博士論文作成指導。
プロジェクト演習における本研究科の教育は、大学院学生自身がプロジェクト研究に参加し、研究の実践を通じておこなわれる点に特徴がある。テーマの課題をもっとも直接に、しかも包括的に扱う科目としてプロジェクト演習をおき、それぞれのテーマを統括するテーマ責任者が運営責任を担う。このプロジェクト演習と関連しつつ、より限定的、個別的な中規模のテーマで個別プロジェクトをおき、テーマ責任者を含むプロジェクト担当者によって運営する。それぞれのプロジェクト演習は、分野を異にするテーマ責任者を中心としたプロジェクト担当者が共通のテーマのもとで協力し、他の複数の分野の専門家の参加をもって教育研究を推進する。こうしたプロジェクト演習の履修によって大学院学生は、学部レベルでの専門教育の多様なバックグラウンドを生かしつつ、領域横断的な研究手法と視角を、専門家による研究実践に参画することで修得することができる。またプロジェクト演習は、過去の成果の吸収、新たな問題発見の方法、同時代の研究者との情報交換、成果の公表、世界への発信というさまざまな側面から、多様な方法の結合によってはじめて完成したかたちをとることはいうまでもない。その意味でプロジェクト演習は、準備期教育の内容を集大成するものとなっている。プロジェクト演習を履修する大学院生は、人文科学および社会科学のすべての領域を横断して成立する共通なアプローチの研究視角として、フィールドワークの方法、ディジタル機器を駆使したプレゼンテーションおよびネット上の発信にかかわるデザインの方法、資料の収集、解読、論文執筆と成果の刊行すなわちテキストの方法それぞれを活用しつつ研究を展開し、成果としての論文を完成させる。