「音楽と社会」研究会

院生代表者

  • 堤 万里子

教員責任者

  • 吉田 寛

企画目的・実施計画

 音楽文化を考えるうえで、社会との関わりからとらえ直すことは、最近の主潮になっている。この潮流は、ポピュラー音楽だけでなく、西洋芸術音楽においても特に顕著になっており、カルチュラル・スタディーズの影響を受けた新しい音楽学が構築されつつある。そこで本研究会では、1)音楽社会学における基礎文献の輪読、2)現代における多様な音楽文化についての検討、を通し、音楽文化と社会との相互関係を理解することを目的とする。
 

活動内容

 前期は音楽社会学の基礎文献である、テオドール・アドルノ『音楽社会学序説』の講読とディスカッションを月2回のペースで行った。後期はまずVOCALOID、ロック・フェス、コンサートにおける作曲家、そして「場所」概念について各自発表した。その後2014年12月20日(土)に、下記のシンポジウム「音楽の〈場〉と聴取経験の変容」を実施した。

  • シンポジウム 音楽の<場>と聴取経験の変容


    音楽の〈場〉と聴取経験の変容

    ※クリックでPDFファイルダウンロード。

    日時: 2014年12月20日(土) 15:00~17:30
    場所: 立命館大学衣笠キャンパス創思館303、304
    アクセス
    キャンパス

    【内容】
    15:00~16:30  基調講演

    登壇者(五十音順、敬称略):

    柴那典(ライター、編集者、音楽ジャーナリスト)「インターネット環境の浸透はポピュラー音楽の「場」と「表現」をどう変えたか」
    【要旨】
    レコード、カセットテープ、CDと変遷してきた音楽メディアのあり方は、インターネットの普及以降、大きく変化した。それは単なる技術の発展にとどまらず、それによって、音楽がリスナーにどう聴かれ、どう受容されるか、そのあり方も変わってきた。ここではYouTubeやニコニコ動画などの動画共有サービスが誕生し、海外ではSpotifyなどのストリーミングサービスが普及した00年代後半から10年代初頭にかけてをその端境期と位置付け、その前後で音楽の聴取と表現がどう変わったのかを考察する。特にニコニコ動画とボーカロイドを巡るシーンにおいて音楽が「聴取」だけでなく「派生創作」の対象となってきたことを分析し、また音楽を所有することの意識の変化について考える。また『アナと雪の女王』のヒットを巡る状況の分析などを通して、日本と海外の比較も行う。

    永井純一(神戸山手大学)「フェスティバルとリア充」
    【要旨】
     本報告は野外音楽フェスティバルとそのオーディエンスに注目し、音楽を介した若者のコミュニケーションについて考察するものである。
     近年、メディア環境の変化に伴い、人々の音楽への接し方は大きく変わった。たしかに音楽市場は縮小の一途を辿っているが、若者は音楽から完全に撤退したわけではない。CD売上げの低迷に反して、ライブ市場が活況をみせていることはその現れのひとつといえるだろう。
     2000年頃から隆盛したフェスティバルもまた、新しい音楽との接し方を人々に提供した。それは演奏に全神経を傾けるようなコンサートとも、演者とオーディエンスの一体感を志向するライブとも異なり、会場にいることそのものを楽しむような体験である。そしてその体験を共有するための仲間の存在は、以前よりも重要さを増している。
     一見するとフェスティバルに共に参加する友人がいることは、当事者にとってよろこばしいとこであろう。しかし、報告者の観察によると、フェスティバル内の同質化傾向や同調圧力のようなものは強まっているように見受けられる。そうであるとすれば、今日のフェスティバルとはどのような場であり、そこに参加することは何を意味するのか。このことに注目し、音楽を媒介としてつながる関係性の現状について、統計調査の結果や各種データを適宜参照しながら考えたい。

    宮本直美(立命館大学)「コンサート空間における作曲家と演奏家」
    【要旨】
    現在の一般的なクラシック音楽コンサートでは、18世紀~20世紀前半までの有名作曲家の交響曲や協奏曲がプログラムを飾る。ベートーヴェン、モーツァルトなど、そこにはクラシック音楽ファンにとってはお馴染みの大作曲家の名前が掲げられており、さらにそれを誰が演奏するかという情報が聴衆の関心対象となる。世界的に有名な指揮者、独奏者、そしてオーケストラは、過去に生み出された音楽作品の総数から考えればほんのわずかな数の楽曲を繰り返し演奏し、その解釈と表現の違いを聴かせている。しかし過去の作品を繰り返し演奏するという、このクラシック音楽業界の習慣は19世紀に定着したものである。それ以前は、また19世紀においてさえ、新作を聴くことがあたりまえの習慣だった。この習慣の変化は、コンサート空間における作曲家と演奏家の完全な分離をもたらし、さらには音楽の聴き方、批評のあり方をも変えることとなった。本報告では、コンサートが現在の形態を獲得する過程で、その空間における様々な役割がどのように再編されたのかを考察する。

    16:30~16:40  休憩

    16:40~17:30  フリーディスカッション

  • 事前申し込み不要、参加費無料
  • 問い合わせ先: ritsongakuba[@]gmail.com

成果及び今後の課題

 本研究会は、研究会で得た知見を各自の研究へフィードバックすることが到達目標であり、共同での学会発表および論文執筆は行っていない。しかしながら12月に開催した公開シンポジウムにおいて、前期・後期の研究会で獲得した知見と各自の研究との接合点をふまえたディスカッションを実施できたことが、本研究会の成果と言える。また研究会構成メンバーの青野恵介は今年度の研究会を通じて得た知見を生かして修士論文を提出するなど、各自の研究を遂行することができた。

構成メンバー

青野 恵介  表象領域・2013年度入学
荒木 健哉  共生領域・2013年度入学
奥坊 由起子 表象領域・2012年度入学
堤 万里子  表象領域・2014年度入学
山口 隆太郎 表象領域・2013年度入学

活動歴

2015年度の活動はコチラ
2016年度の活動はコチラ

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