「分析哲学と芸術」研究会
院生代表者
- 安田 智博
教員責任者
- 吉田 寛
企画目的・実施計画
本研究会は、美学・芸術学に属する問題を取り上げ、分析哲学の観点から検討することを目的としている。研究活動をはじめて、今年で4年目に入る。本年度は、「音/サウンド」に焦点を当てて議論をする。近年、分析哲学の領域においては音に着目する研究が増加している。他方で、メディア文化論や大陸系哲学におけるサウンド研究の蓄積は相当量に及ぶ。本研究会は、分析哲学の音研究とサウンド・スタディーズを統合俯瞰的に検討することによって、「音/サウンド」研究の新たな地平を開拓したい。
活動内容
- 【第1回研究会】
11月3日(月)18:00~
場所:学而館生命部屋
購読文献:源河亨 「音の不在の知覚」、『科学基礎論研究』41(2) pp.81-91、科学基礎論学会、2013年
- 公開研究会「音/サウンド研究の現在」
日時:11月22日(土)14:00~
場所:立命館大学衣笠キャンパス創思館303・304
内容:14:00~15:00
レクチャー1
谷口文和(京都精華大学)「レコード音楽における音の空間性」
【要旨】
録音技術を駆使して制作された音楽、すなわち「レコード音楽」は、その場での演奏にもとづく音楽とは根本的に異なる表現形式を持っている。人はレコードの再生音から、その音が鳴り響くその場とは別の空間を感じ取る。また、映画やビデオゲームがそれぞれのメディアを介して非現実的な架空の世界を表現できるように、レコード音楽もまた、現実に音が鳴り響く空間ではあり得ないような音のリアリティを生じさせる。その点で、レコード音楽の「サウンド」は、物理現象としての音とは分けて考えることができるだろう。本報告では、レコード音楽における歴史的な空間表現の手法の変遷について作品例に触れつつ紹介した上で、レコード音楽的空間のリアリティのあり方について考察する。また、音楽研究における「サウンド」概念の扱いについても併せて紹介したい。15:10~16:10
レクチャー2
源河亨(慶應義塾大学)「環境音と音楽の知覚」
【要旨】
本発表の目的は、非音楽的な環境音の存在論的身分とそれについての聴覚経験の分析を基礎として、そこから音楽知覚のあり方を検討することである。音の存在論としては、Casati and Dokic (2005)やO’Callaghan (2007)で提示された遠位出来事説(located event theory)を取り上げる。それによれば、音は音波ではなく、音源となる物体の振動(あるいはそれに準ずる出来事)である。もし音源が物体の振動と同一であるなら、音は空間的位置をもち、また、視覚や触覚によっても捉えられるようなマルチモーダルな対象であることになるだろう。こうした帰結は音楽的な音の場合にも引き継がれると考えられる。つまり、音楽も空間的位置をもち、複数の感覚モダリティによって捉えられる対象であることになる。本発表では、上記の立場を擁護するだけでなく、その立場が音楽鑑賞の実践に対してどのような帰結をもたらすかについても検討したい。16:20~18:00
フリーディスカッション
予約不要、参加無料、学外の方も御参加いただけます。
成果及び今後の課題
研究会メンバーが、本研究会の助成を受け、各自学会発表や論文投稿を行った。また、公開研究会は学内外併せて12名ほどの参加があり、上記に記したレクチャーを受けて、「音が出来事であると考えることは妥当なのか」、「音楽の知覚と音楽から喚起される想像の違いをどこに設けるべきか(音楽から聞こえてくる空間とは知覚に属するのか、等)」といったディスカッションを行った。次年度は、研究会の記録を保存し、メンバーが常に参照できるようにしたい。
構成メンバー
・安田 智博(代表) 生命領域 2011年度入学
・山口 隆太郎 表象領域 2013年度入学
・角田 あさな 表象領域 2008年度入学
・鍾 宜錚 生命領域 2012年度入学
・根岸 貴哉 表象領域 2014年度入学