生存学と文学(2012年度)
院生代表者
- 田中 壮泰
教員責任者
- 西 成彦
企画目的・実施計画
文学作品に描かれた「ままならぬ身体」を再考する。具体的には、ゴンブローヴィッチ、シュルツ、カフカ、古井由吉、安部公房、寺山修司といった作家の作品から、身体を束縛する社会的拘束力と、それに対抗し逸脱する身体の様相を検討することを主な目的とする。
2012年6月から、隔週ペースで研究会を開催する。毎回二名程度が、各自の関心と生存学を結ぶ研究構想を発表していく。互いの関心を共有するとともに、意見交換を通して問題意識を深め、知識を涵養していく。その間も研究会の内外で互いに連絡を取り合い、資料と情報の交換を行っていく。研究成果は本プロジェクトの研究会のほか、国内外の学会およびシンポジウム等で随時口頭発表し、そこで得られた批判と提言を基に再構成して、各種媒体に論文成果を公表する。
活動内容
当初予定していた隔週ペースとまではいかなかったものの、年に3回、定例研究会を開催し、各自の関心と生存学を結びつけた研究構想を発表した。研究会ではいずれも活発な議論が飛び交い、意見交換を通じて問題意識を深めた。
さらに学外の研究者を招聘して、企画研究会を二回に渡って開催した。8月に「文学と戦争の記憶」というタイトルのもと、東京大学大学院博士後期課程の村上陽子氏をお招きし、嶋津与志の短編小説「骨」を中心に、沖縄文学と沖縄戦の記憶の問題について発表していただき、それを受けて大野光明、友田義行の二名がコメントを行い、全体討議を行った。また、2013年2月に、「文学とケアの現代性」というタイトルのもと、東京大学大学院総合文化研究科の岩川ありさ氏をお招きして、大江健三郎『﨟たしアナベル・リイ総毛立ちつ身まかりつ』を中心に、トラウマやケアの問題など多岐に渡るお話をしていただき、それを受けて、泉谷瞬から鹿島田真希の「冥土めぐり」について話をしていただき、全体討議を行った。
成果及び今後の課題
今年度は、外部から若手の研究者二名を招いて、企画研究会を二度開催できたことが大きな成果であった。そこでは文学と戦争の記憶の問題をはじめ、介護やセクシュアリティー、トラウマの記憶の伝達や当事者性の問題などが議論されたが、本研究会が向きあい考察すべき問題として掲げた「ままならない身体」と文学との関わりについて、文学研究者だけでなく専門を異にする多くの研究者と問題意識を共有し、議論を深めることができた。今後も、これらの研究会で築いた内外の研究者との交流も積極的に活用しながら、生存学と文学を結ぶ学際的な共同研究を、より広く展開していくことを予定している。
構成メンバー
- 大野 光明
先端総合学術研究科 一貫制博士課程5回生 研究分担者(院生) - 櫻井 悟史
先端総合学術研究科 一貫制博士課程6回生 研究分担者(院生) - 濱本 真男
先端総合学術研究科 一貫制博士課程4回生 研究分担者(院生) - 北見 由美
先端総合学術研究科 一貫制博士課程1回生 研究分担者(院生) - 泉谷 瞬
日本文学専修 博士後期課程3回生 研究分担者(院生) - 秋吉 大輔
日本文学専修 博士後期課程3回生 研究分担者(院生)