家庭内・親族間等における人権問題研究会(2022年度)

院生代表者

  • 中井 良平

教員責任者

  • 立岩 真也

概要

 十分な対策が行われているかは別として、学校や職場といった場所におけるいじめ等の人権侵害に対しては、厳しい目が向けられるようになっている。他方、家庭などにおいて近しい関係にある者同士の間に起こった人権侵害では、外部の第三者による評価が困難なこと、職場や学校といった公共にも開かれている場所と異なり、閉鎖性が高いことなどから、被害にあった者がより声をあげづらく、声をあげても適切に受け取られない、といった事態が起こっていることが考えられる。また、法によっても規定され残存する家長制の影響も受け、家族・親族間においては序列が存在し、その上位にいる者から下位の者に対しての権力の行使が可能となっている。これらの事情が組み合わさることで、公共の場においては人権侵害と捉えられる問題が、ひとたび家庭内や親族間の問題となると、「不適切な(行いをする)成員」に対する「正当な力の行使」などとして容認されるという事態がうまれ得る。家族・親族は、多くの者が生まれながらに最も身近に、永続的に所属する集団であり、その集団においての被害・疎外それ自体が、その者への大きな人権侵害となり得る。またそのような強固な基盤を持つ集団において少数派になった場合、他の成員に体制の転換を訴え、実現させることは極めて困難である。外部への被害の訴えが困難であることと上記事情が組み合わさり、被害にあった者は孤立することになる。本プロジェクトでは、インタビュー調査を主軸に据え、家族や親族間での人権侵害やそこから立ち直ろうとする営み、それを阻害する要因などに着目することで、「家」において権力がどのように作動し、弱い立場の成員へ影響していくのかを考察する。

活動内容

・インタビュー調査(2022年度は1名)
・定期的な文献講読(2022年度は『結婚差別の社会学』)

成果及び今後の課題

 インタビュー調査では、婚外子を産むことに対する国・社会・家族・親族からの差別的な扱いについて、Aさんにお話を伺うことができた。Aさんは長く差別に反対する運動を行ってこられ、お話を伺いながら、過去から現在に至る差別のあり方や、それに屈しまいとした人々の行動の、重要な一端を見ることができた。また、プロジェクトの問題意識を自身のものとして強く有するメンバーの経験と、Aさんの経験を照らし合わせたとき、家父長制などを拠り所とし、「家」内の成員を正統/非正統な者に隔てようとする人々のあり方が、浮かび上がってきた。『結婚差別の社会学』(齋藤 直子)の講読及び意見交換からも、同書における語り(人々の経験)と自身らの経験を対照させ、同様の気付きが得られた。
 課題としては、今後プロジェクトにおける成果を、どのように発表・報告していくか、という点がある。メンバーの多くは、プロジェクトにおける問題意識に関わりのある研究を行っているものの、プロジェクトでの成果を直接研究に用いることは、昨年度はなかった。得られた気付きをその時だけのものとしないよう、プロジェクトとして、成果報告の方法・場などについて考えていきたい。

2022年度購入書籍: 『結婚差別の社会学』 齋藤 直子

構成メンバー

中井 良平
平安名 萌恵
戸田 真里

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