「アート/クラフト」研究会(2021年度)
院生代表者
- 柴田 惇朗
教員責任者
- 小川 さやか
概要
本研究会の目的は「アート/クラフト」の境界的事例の質的研究を用いて、制度の枠を超えた社会における創造性のあり方について研究し、その成果を学術論文として発表することである。「アート」と「クラフト」は社会学者のベッカーが芸術生産研究において用いたアート・ワールドにおける生産物の制度的評価の基準である。「創造的な能力と天賦の才」が付与されているかの判定によって単に高い技術で生産された「クラフト」は「アート」から弁別すされると言われているが、その定義は曖昧なものである(Becker 1984=2016:300−19)。本研究会では「アート」の「クラフト」への接近(例:「天才」的技術の形式化)あるいは「クラフト」の「アート」への接近(例:工芸的生産物の芸術界での承認)の事例を境界的事例と捉える。すでにメンバーが調査をしているフィールドには「その最も純化されたかたちにおいてさえ」他の芸術と比べて「純粋さ」が劣ると考えられている演劇(Bourdieu 1979=1990I:31)やアート・ワールドの外で発展した切り絵、陶芸といった実践があり、豊富な境界的事例へのアクセスが可能である。これらの実践において創造性がどのように発揮され、作り手が芸術界やその他のコミュニティとどのような関係を結び、いかなる同期で活動を駆動しているのか。本研究会ではこのような問題に取り組んでいく。
具体的な内容および実施方法は以下の通りである。5月から2月にかけて「アート」もしくは「クラフト」の従事者に関する質的研究を行う研究会メンバーで集まり、月例研究会を開催する。そこでは参考資料の講読に加え、各人の既存のデータおよび7月から10月の間のフィールドワーク・文献調査を通じて収集した新たなデータの断続的な集積、共同分析を行う。データの収集は「アート/クラフト」の生産だけでなく、生産が行われるに至った背景に着目して行う。その一環として行う予定の、福島県での調査対象の切り絵作家の創作的背景をめぐる調査の交通費予算を計上している。その他のフィールドワークの必要経費は本助成とは別に用意する予定である。調査データの分析の成果は11月から2月の間に論文としてまとめ、年度内に投稿を行う。なお、論文の具体的な内容および投稿先に関しては10月までに決定し、報告する。
本研究会の意義は学際的な研究領域の院生が集まり、社会人文科学において広く重要性が指摘されている創造性に関する共同研究を行う点である。各学問領域の理論や方法論に関する知見の共有を通じた各人の研究者としてのスキルアップは各自の研究の充実に寄与すると考えられる。また、共著論文の執筆はそれ自体が貴重な研究経験となることに加え、それが各自の業績となることも大きな意義である。
【参考】Howard S. Becker, 1984, Art Worlds, University of California Press.(後藤将之訳,2016,『アート・ワールド』慶應義塾大学出版会.)・Pierre Bourdieu, 1979, La Distinction, Éd. Du Seuil.(石井洋二郎訳,1990,『ディスタンクシオンI・II』藤原書店.)
活動内容
本年度、当研究会は10回の例会と1度のフィールドワークを行った。例会ではメンバーの研究関心の共有や文献の輪読、フィールドワークおよび学会発表・論文提出に向けた準備を行った。
構成メンバー
柴田 惇朗
藤本 流位