「障害者と労働」研究会(2020年度)

院生代表者

  • 栗川 治

教員責任者

  • 立岩 真也

概要

 本プロジェクトは、次の2つを目的とする。
①「障害者と労働」に関わる研究をおこなっている院生が、共同研究を通じて、各自の研究力を向上させる。
②各院生が「障害者と労働」に関する最先端の国内・国際的な研究動向を把握し、実態を調査し、その成果を集積・発信していくことを通じて、学術研究の発展に寄与できる実践力を培う。
◆方法・内容
 上記の目的を達成するための方法として、次の内容の活動をおこなう。
①定例研究会の開催(月1回程度): 各院生の研究経過、研究成果を持ち寄り、相互の批判・討論を通じて、各自および共同の研究の課題を明らかにしていく。但し、新型コロナウイルス対策のため、当面(すくなくとも2020年度春学期)は、対面での研究会はおこなわず、電子会議システム等を活用してweb上でおこなう。
②研究成果報告会の実子(年度末): 公開の研究成果報告会をおこない、1年間の本プロジェクトの実績を報告するとともに、国内外の最先端の研究者を招聘してシンポジウム(講演かい)を併せて開催し、今後のさらなる研究の進展を図る。
③生存学研究への参画: 立命館大学生存学研究所の研究活動に積極的に参画し、障害学国際セミナー(東アジア障害学フォーラム)での研究発表・海外の研究者との交流を深めるとともに、日常的には生存学HPの「障害者と労働」のサイト(http://www.arsvi.com/d/w0105.htm)での資料集積・内容拡充を、本プロジェクトの課題に位置付けておこなっていく。
④学会・研究会、調査への派遣: 「障害者と労働」に関する各種学会・研究会に参加する院生、およびインタビュー調査等に出張する院生に対して、旅費等を補助して、各自の研究活動を支援する。
⑤プロジェクト成果報告の発信: 上記①~④の活動成果を随時報告書にまとめ、生存学hpに掲載し、
関係者から指導・助言を得る。(印刷物での報告書=年報頒布は2021年度に入ってからの予定)
◆意義
 本プロジェクトは、現代の日本と世界において重要なテーマである「障害者と労働」に関して、最先端の学際的・国際的な知見・情報を得つつ、個々の院生が独創的な研究を進めるとともに、その成果を先端総合学術研究科および生存学研究所の活動・媒体を通じて世界に発信し、この分野の学術研究の進展に寄与していく経験を積めるという意義をもつ。これは、「障害者と労働」に関する研究を志す大学院生が多数在学する本研究科(おもに公共領域)の特色を生かし、また、日本と東アジア、そして国際的な障害学研究の拠点
である生存学研究所が本研究科ときわめて密接な関係にあるという条件に恵まれていることによって可能となっていることである。

活動内容

新型コロナ対策のため、すべての活動をオンライン(Zoom、メール等)でおこなった。
 具体的な月例会等は、以下のとおりである。その他、メンバーのメーリングリストをつくり、日常的な情報交換、相互の研究相談をおこなった。

 ①定例研究会の開催(毎回13時~14時30分、Zoomで)
 5月28日(木);9名参加。自己紹介、申請書に基づき研究会の目的、活動、予算などを代表者が説明。今後の運営について協議。
 6月25日(木);9名参加。青木千帆子,2012,「障害者の就労場面から見える労働観」『解放社会学研究』25: 9-25.の論文購読と意見交換。「労働と賃金の等価交換」に「軽減労働同一賃金」の関連。理論としくみ、身分と能力、計測可能性など議論。
 7月31日(金);8名参加。日本の障害者雇用・就労の制度(報告者 駒澤真由美)。社会的企業、ソーシャルファーム、就労支援A型、賃金補てんなどについて議論。
 8月27日(木);7名参加。中村雅也,2020,『障害教師論──インクルーシブ教育と教師支援の新たな射程』学文社.の「第9章 障害者労働の業務支援理論」に関して、著者の中村雅也氏(東京大学先端科学研究センター研究員)が解説、参加者と意見交換。ゲストとして大谷泉氏(立命館大学産業社会学部教授、生存学研究所副所長)も参加し、障害教員当事者としての体験等を語った。
 9月30日(水);3名参加。障害学会第17回大会の報告をめぐり討論。中井報告(障害学国際セミナーオンライン事務局の経過)、阿智地報告(農福連携、農業は障害者にとってのリーセントワークか)、栗川報告(軽減労働同一賃金は「障害者の低賃金は当然」を崩していきたいという試み)、市場での労働と、ベーシックインカムや年金等の社会保障(政府、税金)からの支出との関係をどうみるか、能力主義(能力はあるのだからちゃんと認めろ)と反能力主義(能力はなくとも賃金を払え)との関係について議論。
 10月30日(金);4名参加。伊藤綾香,2020,「障害者との共生をめぐる運動──障害者と「共に働く」場をつくる運動に着目して」長谷川公一編『社会運動の現在──市民社会の声』有斐閣;300-22.の論文購読と意見交換。
 11月20日(金);5名参加。澤岡友輝「高次脳機能障害を意識するとき――中途障害に着目して」(学術誌投稿予定原稿)の検討。
 12月14日(月)~27日(日);指定HP閲覧とメールによる意見交換。(1)張万洪教授(武漢大学ロースクール)の先端研集中講義と、そこに絡めて開催予定の当研究会の国際シンポジウムの事前学習。(2)生存学HP(arsvi.com)の「障害者と労働」ページの点検。

 ②国際シンポジウムの実施
 当初計画の「研究成果報告会」に当たるものとして、生存学研究所に共催いただき、先端研集中講義特設イベントの公開シンポジウムを当院生プロジェクト主催で開催した。25名参加。
 1月13日(水)13時~17時
 シンポジウム 「障害者権利条約と労働・雇用をめぐる日本、アジア、世界の状況」  司会: 立岩真也(立命館大学大学院先端総合学術研究科教授、生存学研究所長)
 session1 13:00~14:10 日本語・英語通訳(長瀬修)
報告1(45分): 日本の障害者雇用の課題① ~ 日本障害フォーラム(JDF)の障害者権利条約初回審査パラレルレポート・労働及び雇用(27条)をめぐって  長瀬修(立命館大学生存学研究所教授)
報告2(15分): 日本の障害者雇用の課題② ~ 障害学国際セミナー2019武漢での議論をめぐって 駒澤真由美
(立命館大学大学院先端総合学術研究科院生、「障害者と労働」研究会)
休憩
 session2 14:10~15:15 日本語・中国語通訳(高雅郁)
報告3(講義、75分): 障害者権利条約と労働 張万洪(武漢大学教授)
休憩
 session3 15:30~16:50 日本語・中国語通訳(高雅郁、欧陽珊珊)
報告4(15分): 「障害者と労働」、その理論と実践① ~ 障害教員の雇用における「異別処遇・同等待遇」をめぐって 栗川治(立命館大学大学院先端総合学術研究科院生、「障害者と労働」研究会)
報告5(20分): 「障害者と労働」、その理論と実践② 立岩真也
質疑応答(40分) 中井良平、駒澤真由美、立岩真也、張万洪、長瀬修。

 ③生存学研究への参画
 立命館大学生存学研究所主催の2つのシンポジウムに研究会メンバーが参画した。
 7月18日(土)障害学国際セミナー 2020「東アジアにおける新型コロナウイルス感染症と障害者」
 2月27日(土)障害学国際セミナーオンライン特別セミナー「新型コロナウイルス感染症と東アジアの障害者」
 また、生存学HPに、研究会メンバーが各自の研究成果、文献等を掲載していった。但し、「障害者と労働」のカテゴリーでの整理はできなかった。

 ④学会・研究会、調査への派遣
 ほとんどの学会、研究会が新型コロナの影響でオンライン開催となり、また院生プロジェクト予算の個人研究支援への支出が認められなかったため、参加補助はできなかったが、研究会メンバーが、学会等に参加し、研究成果を発表するとともに、その経験をふまえて「障害者と労働」研究会例会等での議論に還元させた。
 とくに、9月にオンライン(HP、メール、Zoom)で開催された障害学会第17回大会では、当研究会メンバー3名が学会で発表するなどした。

 ⑤プロジェクト成果報告の発信
 2020年度の報告書については、2021年度においてまとめる予定である。当研究会の活動状況等については、随時、生存学MLやHP等で報告、発信してきた。

成果及び今後の課題

 「障害者と労働」を研究テーマとする院生が集まり、議論する定期的な場を持つことができたことが、まず大きな成果である。
 また、生存学研究所の先生方(立岩所長、大谷副所長、長瀬教授)や、武漢大学の張教授、東京大学の中村氏など、この分野の先達である研究者との交流、協議の機会を得て、多くの指導、助言、刺激を受けることができたことも、研究会メンバーにとって貴重な経験であった。
 この共同研究を経て、研究会メンバー各自が学会発表、学術雑誌への論文投稿、博士論文執筆などに取り組み、研究成果を上げていった。
 反省点、今後の課題としては、シンポジウムの準備が遅れてしまい、日本語・中国語・英語の通訳の配置をすることがやっとで、手話通訳等の情報保障ができなかったことは重大な問題であると反省している。
 また、生存学HPの「障害者と労働」ページの拡充、整理も、ほとんどできなかった。データそのものは集積しつつあるので、来年度以降、HP掲載等を計画的におこなっていきたい。

構成メンバー

渥美つとむ
岸田典子
栗川治
駒澤真由美
澤岡友輝
中井秀昭
中井良平
兵頭 卓磨

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