表象文化論研究会
院生代表者
- 西澤 忠志
教員責任者
- 千葉 雅也
企画目的・実施計画
本研究プロジェクトの目的は、人工知能による芸術作品が鑑賞者の感性に与えた影響を検討することを通じ、テクノロジーの進化にともなう芸術作品の展開を現在の我々はどのように解釈し得るのかを提示することである。
本研究プロジェクトは3つの方法を通じて目的の達成を目指した。①読書会の実施による、参加者の人工知能に関する知識の習得、②個人発表による、習得した知識の応用と検討、③シンポジウムの実施による、成果の公表。
本研究プロジェクトの意義は、人間が創作においてほとんど介在しない芸術作品、その中でも絵画だけでなく文学や音楽など幅広い創作活動をしている人工知能による芸術創作に着目し、これまでの美学によりそうした作品を解釈するのが可能なのかを論じることにより、今後の人工知能による創作の解釈可能性を指し示すことにある。
活動内容
1)基礎となる文献の講読
シンポジウムに向けて、人工知能と芸術、ヒューマニズムと芸術に関する論文、本を講読した。
・落合陽一『魔法の世紀』
・中ザワヒデキ「人工知能と美学と芸術――人工知能が真に鑑賞し創作し人間の美学と芸術が
変貌する」『人工知能』33巻6号
・篠原資明「展望 芸術の生成をめぐって」『岩波講座 哲学7 芸術/創造性の哲学』
・ボリス・グロイス,角尾宣信(訳)「芸術、技術、そしてヒューマニズム」『思想』1128号
・稲葉振一郎『AI時代の労働の哲学』
・谷口忠大『創発記号ロボティクス』
2)シンポジウムの開催
2020年1月25日(土)に創思館カンファレンスルームでシンポジウム「AIの芸術制作と「人間性」――AIによって「人間」は変わるのか?」を開催した。
講師に中ザワヒデキ(美術家、人工知能美学芸術研究会)、谷口忠大(立命館大学)、千葉雅也(立命館大学)を招聘した。第1部は中ザワ、谷口両先生による講演、第2部は千葉先生を加えたパネルディスカッションを開催した。本シンポジウムの目的は、AIと人間との関係性からより視点を広げ、AIを駆動する人間とそれを受容する人間の関係に注目することにより、駆動する人間と受容する人間における「人間性(ヒューマニティー)」というものがどのようなものであるのだろうかという点を問うことにあった。
- AIの芸術制作と「人間性」――AIによって「人間」は変わるのか?
趣旨
現在、AIが社会に取り入れられていく中で、AIと人間との関係をどう考えるのかが議論されている。その議論は、AIの進出により社会が効率化されるという楽観論から、人間の存在価値が低くなってしまうといった悲観論まで、数多くされている。
こうした議論の中で見逃されているのが、AIを駆動させているのは結局のところ人間であるということである。なぜ、そうしたことを確認しなければならないのか。それは、それまでの議論がAIとそれを受容する人間との関係にのみに注目していたからである。
そこでこのシンポジウムでは、AIと人間との関係性からより視点を広げ、AIを駆動する人間とそれを受容する人間の関係に注目する。
それによって、どのような点を展望として示すことができるだろうか。それはおそらく、駆動する人間と受容する人間における「人間性(ヒューマニティー)」というものの変化という点にあるだろう。では、それをAIによるどのような制作によって提示することができるだろうか。それは、芸術制作にあるだろう。なぜか。それは芸術制作が、基本的に人間によるものであることが前提とされているからである。
このシンポジウムでは、AIによる芸術制作が「人間性」というものを制作者や鑑賞者に再考をどのように促すものなのかを考えたい。
日時:2020年1月25日(土)14:00~17:30(予定)
会場:立命館大学 創思館 カンファレンスルーム
【タイムテーブル】
●趣旨説明
西澤忠志(立命館大学大学院)
●招聘講師の講演
中ザワヒデキ(美術家 人工知能美学芸術研究会)「人工知能が真に鑑賞し創作し、人間の美学と芸術が変貌する」
谷口忠大(立命館大学 情報理工学部教授)「記号創発ロボティクスによる人間と表象の理解」
●ディスカッション
中ザワヒデキ
谷口忠大
司会・コメント 千葉雅也(立命館大学 先端総合学術研究科准教授)
成果及び今後の課題
本シンポジウムでは以下の点における成果があった。
1点目は、講師の招聘、会場整備などのシンポジウムまでの準備を、構成メンバーによって企画、実行したことである。これにより、シンポジウムまでの運営に関する技術を学ぶことができた。
2点目は、シンポジウムを通して、AIによる芸術制作と人間による芸術制作とを分けるポイントとして、「身体性」という新たな観点を見出すことができたことである。
しかし、以下の点において課題が残った。
1点目は、当日の座談会の司会を千葉先生に任せたままであり、構成メンバーによる質問がシンポジウム中に出来なかったことである。これにより、シンポジウムの内容に関する成果は、先生方の力に頼ったものとなってしまった。受付などのシンポジウム内での事務作業に構成メンバーが忙殺されたことも原因の一つだが、それまでの講読会内での疑問点をシンポジウム内で質問する用意が出来なかったこと、招聘講師の講演を聞いた上での司会進行が出来なかったったことが原因として挙げることができるだろう。
2点目は、当初予定していた「個人発表」が、構成メンバーのさまざまな事情により、実施することが出来なかったことである。特に秋学期以降は、学会発表、論文執筆に構成メンバーが追われたため、研究会での発表に時間を割くことが難しかった。そのため、構成メンバーの予定を計画段階で把握し、その上で研究会内での発表の有無を決める必要性があった。
以上の課題を踏まえ、構成メンバーが自身の研究課題と絡めつつ、主体的に参加できるような環境づくりを行うことを、研究会運営において目指したい。
構成メンバー
・西澤忠志
・枝木妙子
・寺前晏治
・福田浩久
・森敬洋
・寺田拓矢