マルチモーダル人類学先端研究会(立命館大学×ペンシルベニア大学)(2023年度)

院生代表者

  • 福田浩久

教員責任者

  • 小川さやか

概要

理性の優位を身体や情動といった観点から揺るがせようとする知的転回(ダマシオ 2005)や、デジタル革命により複合化したメディア状況を受けて、学術の対象と手法は従来のテクスト的・理性的なものを超えて、マルチモーダルかつ情動的なものを含むようになっている。日本で言えば、東京外大TUFiSCo、民博TRAJECTORIAといった機関、ジャーナルの創設が象徴的であり、マリノフスキーの時代からフィールド経験の全体性と格闘してきた人類学はその中で主要な参照点となっている。しかし、日本ではそうした動きが個々のプレイヤーに任されることで自由闊達さを担保してきた一方で、制度化されず、大きな動きにならないという弱点もあった。それに対して、アメリカでは、映像・マルチモーダル人類学に特化した機関や教育課程を設立し、積極的に制度化し、人類学の変革に貢献してきた。そこで、本プロジェクトでは、アメリカのマルチモーダル人類学の中心地のひとつであるペンシルベニア大学のファン・カストゥリジョン博士を7月に、デボラ・トーマス教授を1月に招聘し、それぞれシンポジウムを開くことで、日米双方の異なる学問風土からマルチモーダリティについて考察する。

活動内容

交渉するマルチモーダル人類学 ― 映像とテクストの〈あいだ〉、人類学知と先住民知の〈あいだ〉

日時:2023年7月9日 13:00-17:50
   第1部:映像上映 (開場12:30) 13:00-14:00
   第2部:ディスカッション 14:30-17:50
会場:立命館大学衣笠キャンパス 充光館シアター型教室(JK001)
   〒603-8346 京都府京都市北区等持院北町56−1
   https://goo.gl/maps/QFZXrxDPTEv2w1vS6
予約:https://forms.gle/Mt2mWpM1DqJk224VA(応募多数の場合は先着)

※使用言語は英語だが、日本語の同時通訳が入る。
同時通訳希望の方は申し込みフォームにチェックをお願いします。

成果及び今後の課題

 7月、1月双方のイベントとともに盛況のうちに終え、多くの気づきと学びを得ることができた。7月の会ではカストゥリジョン博士が現在執筆中の単著と映像がどう相互に絡み合いながら、従来の学知を超えるマルチモーダルな知を提示できるのかという点で学びと活発な議論が交わされた。1月のイベントでは、研究所、オンラインジャーナル、学会、ゲーム、メディア祭といった様々なマルチモーダル・プラットフォーム制作に従事されてきた方々の報告と議論の応酬があった。映像人類学、芸術、経済人類学、感情社会学といった異なるバックグラウンドを持った方々が相互に建設的に批判することから生まれる新たな気づきがあった。その中でも特に大きな課題は、マルチモーダルな制作をいかにして評価するかという評価法の確立だった。したがって、次年度の研究会ではこの評価を巡る思考を深めるべく活動していきたいと考えている。

構成メンバー

福田 浩久
藤本 流位
木田 真理子
柴田 惇朗

近現代芸術論研究会(2023年度)

院生代表者

  • 高畑 和輝

教員責任者

  • 竹中 悠美

概要

本研究会は、現代芸術・現代思想研究を背景とするメンバーによって近現代の芸術理論の文献講読と関連施設へのフィールド調査を通して、理解を深めるとともに、研究ネットワークを拡げること目的としている。本年はとりわけ「シュルレアリスム」思想の展開を、日本においての理論的支柱と位置づけられる瀧口修造(1903~1979)を中心に追っていく。具体的には、瀧口の著作の読解と瀧口研究の整理を中心に隔週での輪読会を行った上で、各メンバーの研究対象と瀧口の思想あるいは「シュルレアリスム」との関係性を研究し、9月の公開研究会において発表、討論を実施する。さらに、瀧口の常設展が置かれている富山県美術館へのフィールド調査を行う。本活動を通じ、現代音楽研究、前衛・現代芸術研究、現代思想研究を専門にするそれぞれのメンバーの知見を総合し議論を行うことで、未だ不十分であるとみなされている(秋元 2015)瀧口の芸術性、芸術活動、創作の学術的評価に寄与することができる。同時に、瀧口の思想、ひいてはシュルレアリスムの実践は本研究会のメンバーの各対象とも密接に関わっており、各人の今後の研究成果発表において、本研究の成果のさらなる発展が期待される。 参考文献■秋元裕子, 2015, 「瀧口修造研究・批評の分析:瀧口はどのように読まれてきたか(1)」『北海学園大学人文論集第58号』, 北海学園大学.

活動内容

第一回研究会
日時:2023年6月18日
場所:究論館プレゼンテーションルームA
内容:研究会の日程調整、講読文献の精査(シュルレアリスムの基本的文献を講読していくにあたり、まずは「瀧口修造の一九三〇年代:シュルレアリスムと日本」『美学64巻2号』(平芳幸浩、2013)に決定した。また、フィールド・ワーク先である富山県美術館への訪問日程のすりあわせをおこなった。

第二回研究会
日時:2023年7月8日
場所:ZOOM
内容:平芳幸浩、2013、「瀧口修造の一九三〇年代 : シュルレアリスムと日本」『美学』 64 巻, 2 号、p. 61-72 の講読。これをもとに院生メンバー同士での意見交換をおこなった。瀧口は、戦後現代芸術界のスポークスマンであるとともに1930年代においていち早く日本にシュルレアリスムの動向を紹介した論者として知られている。1930年代後半から瀧口がシュルレアリスムの日本における「独自性」を主張した背景を、先行研究では前衛美術弾圧や思想統制のなかでの保守への転向(彼は1941年に拘留も経験する)とみなされてきたが、平芳によれば1930年代後半以後、瀧口は実践者から理論的指導者への以降を見せており、さらにシュルレアリスムをイギリスロマン主義としたうえでその延長線上に松尾芭蕉の俳諧や世阿弥の能の幽玄性、あるいは利休の「さび」といった美意識に見出し再構築しようとしたとされる。院生メンバーの議論では、この観点から瀧口が戦後主導する「実験工房」のアーティストが主題とした「能」や「芭蕉」といったものに展開されると考えられた。
先端総合学術研究科院生プロジェクトスタートアップ報告会
日時:2024年7月22-23
場所:創思館カンファレンスホール
内容:スタートアップ報告会として研究会を紹介するポスターを作成し掲示した。これをもとに会場参加者と議論をおこなった。

第三回研究会
日時:2024年7月31日
場所:ZOOM
内容:秋元裕子、2022 、『瀧口修造研究―「影像人間」の系譜』、和泉出版 の講読。本書全体の目的を確認したうえで、序章の瀧口修造の先行研究を筆者が整理した部分を講読した。秋元は瀧口の評価軸として以下の四項を示した。① 戦前・戦後における前衛芸術の養護者としての評価 ② シュルレアリスムの理解・紹介・実践者 ③ 唯物論的観点、精神に対する物質の優位性を訴え、それに基づいた美学を示唆したことに対する評価 ④ 芸術における影像(イメージ)の重要性の主張 秋元はこうしたなかでこれまで議論の集中してきた「瀧口をシュルレアリスムのなかで評価すること」を一旦保留し、「瀧口が創造原理として重視した、想像力の系譜を浮き上がらせることが、作品分析のためには重要」(3頁)としていた。そのうえで、瀧口研究の動向と時代区分を確認し、議論をおこなった。

第四回研究会
日時:2023年9月9日
場所:ZOOM
内容:富山県美術館訪問の詳細日程の検討。その後、2件の文献を講読・議論をおこなった。
大谷省吾2018「「物質」をキーワードに瀧口修造と日本の前衛美術を考える」 展覧会「瀧口修造と彼が見つめた作家たち コレクションを中心とした小企画」20180610~0924(東京都国立近代美術館)
光田由里「瀧口修造の[物体] 接触・写真・幾何学」大阪大学、シンポジウム〈具体〉再考 第2回「1930年代の前衛」(20171203)における発表

富山県美術館フィールド調査
日時:2024年11月17日
内容:富山県美術館の常設展示である瀧口修造コレクションの調査を目的に訪問した。学芸員からの案内を受けることは叶わなかったが、瀧口を取り巻く様々なアーティストとのあいだの交流関係などをコレクション作品やオブジェを通して確認した。とくに、本美術館で2019年に行われた展覧会「瀧口修造/加納光於《海燕のセミオティク》」》の刊行資料をもとに、瀧口が実験工房を始め、戦後現代芸術界のスポークスマンとしての活躍の一側面を確認した。またその他の常設展(全4種)も見学し、議論をおこなった。

成果及び今後の課題

本研究会によって実施した講読会によって、瀧口修造の先行研究の動向を確認し、戦前・戦後の現代芸術界にいかなる影響を及ぼしたのか、またその背景として瀧口をどのような社会状況・思想的状況が取り巻いていたのかの理解を深めることができた。院生メンバーのなかから、北村、髙畑のように思想や現代音楽の側面から瀧口を照射した議論、藤本、川名、崔のように現代美術の領域からアプローチした議論、大橋のようなアウトサイダーアートや、特定コミュニティにおける相互関係二着目した議論が提出された。研究会の中で、瀧口が「シュルレアリスムをなぜ、またいかにして日本独自のものとして再構築しようとしたのか」、またフランスにおける差異とどのようなものが認められるかといった問題が浮上したが、これを明らかにし、成果として発表するに至らなかった。したがって、各メンバーの研究成果として本研究会の知見が活かされることを望みつつ、本研究会としても合同での成果発表等を目指していきたい。

構成メンバー

高畑和輝
川名祐実
北村公人
藤本流位

食の文化変容研究会(2023年度)

院生代表者

  • 酒向 渓一郎 

教員責任者

  • 小川さやか

概要

 本研究会は東アジアの食の受容/変容を研究対象とし、文化人類学や社会学における「文化の創造」の理論から、近年文化的交流が活発化する日本と韓国を中心とする食の文化変容の実態を解明することを目的とする。本研究会ではまず理論的枠組みの理解を図るため、ホブズボーム&レンジャー(1992)の『創られた伝統』の輪読を行う。その後日韓の歴史において、相互に食に文化的な変容が明らかになったことを論じた八田靖史(2015)の『食の日韓論』の講読を行う。これらの輪読を終えた後に、日本国内における韓国料理および韓国食品の受容、影響に関するフィールドワークを一度実施する。そのうえで最後のまとめとして、『食の日韓論』の著者である八田氏を招聘し、近年、特にコロナ前後の日本における韓国料理/食品の受容および韓国における日本料理/食品の受容について講演をいただく。これらの活動を通して、日韓における食文化の変容/受容だけではなく、その背景にある日本人/韓国人の移動がもたらした東アジアの移動も踏まえた移民のムーブメントの一端が何であるか、そして移民と食文化の関係性の一つの事例を提示することを目標とする。【参考文献】ホブズボーム&レンジャー(1992) 『創られた伝統』紀伊国屋書店、八田靖史(2015)『食の日韓論―ボクらは同じものを食べている』三五館

活動内容

「食の文化変容研究会」日韓の食文化比較 ボクらは同じものを食べている

【日時】
2024年1月14日(日) 15時00分~17時30分

【概要】
本研究会では「伝統の創造」というワードから、一見伝統と考えているものも必ずしも実はそうでもないことについて学んできました。それは食においてもそうです。皆さんが普段当たり前に食べているものもそういうものが多いです。これらについて学んだうえで本研究会では八田靖史様をお招きして、日韓の食の事例から普段当たり前に食べているものに関して、改めて再考する機会を持ちたいと今回企画しました。

【講師】
八田靖史(コリアン・フード・コラムニスト)

プロフィール

慶尚北道、および慶尚北道栄州(ヨンジユ)市広報大使。ハングル能力検定協会理事。1999年より韓国に留学し、韓国料理の魅力にどっぷりとハマる。韓国料理の魅力を伝えるべく、2001年より雑誌、新聞、WEBで執筆活動を開始。トークイベントや講演のほか、韓国グルメツアーのプロデュースも行っている。

【場所】:立命館大学衣笠キャンパス 末川記念会館講義室

【主催】:立命館大学大学院先端総合学術研究科「食の文化変容研究会」

【参加方法】参加費無料 *要事前申込制

お申し込みはこちらから。
https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLScr7DFrn1xzGCu4fJ8ZvolmupMcnJk2ZRkAFE0y5xG7D4M4jA/viewform

成果及び今後の課題

 『創られた伝統』の輪読、そして八田氏の講演会を通して、日本/韓国の食の文化受容の変遷を体系的に学ぶことができた。『創られた伝統』においても触れられている植民地を展開した列強が被植民地においてなんらかの影響を及ぼした点について、日本⇔韓国の間においても同様の影響を確認することができたのが成果としてあげられる。一方で植民地支配が終わり、それとは直接的には関係ない文脈においても日韓の文化受容は続いている。一方で歴史と文化は別と捉えて「消費」が続いているのも確かだ。課題としてはこうした「ポストコロニアル」な中での「消費」をどう捉えるかについて考えていく必要もある。

構成メンバー

酒向 渓一郎◎
柴田 惇朗
宮本 敬太
Chen Kewei

SOGI研究会(2023年度)

院生代表者

  • OUYANG Shanshan

教員責任者

  • 立岩 真也

概要

【目的】SOGI(Sexual Orientation and Gender Identity)とは、性的指向とジェンダー・アイデンティティのことを意味する。本研究会はSOGIの視点で幅広い課題を検討することを目指している。2023年度研究会の目的は、コミュニティ論、アイデンティティ論、社会運動論において、SOGIにかかわる問題はどのように論じられているのかという課題を中心に、地域研究、クィア理論、メディア分析、フェミニズムなど多様な分野から考察することである。
【内容と方法】本研究会の内容および方法は3つの活動で構成される。
①読書会を開催し、文献の輪読を行うことを活動の基本とする。担当メンバーがレジュメを作って発表する。
②クィア・コミュニティ活動(例えばパレード、クィア映画祭、展覧会など)に参与観察し、その場で得た知識と感想などを研究会で検討する。
③読書会で検討したテキストの著者や研究者を招きして公開研究会を行う。
【意義】本プロジェクトは、多様な専門領域とSOGIの接点を探ることによって、地域研究、表象研究、社会運動研究に関心を持つメンバーは各自の研究を進捗させると考える。

活動内容

「Bear Study&Queer Geography」

2023年度 SOGI研究会 公開研究会

【日時】
2023年12月9日(土)17:00~20:00

【参加方法】
入退室自由、事前申し込みなし

【場所】
Microsoft Teams
ここをクリックして会議に参加してください

Meeting ID: 476 405 256 903
Passwords: pG2YH8

【Speaker】
Dr. Nicholas McGlynn (University of Brighton, UK)

Dr.McGlynn is a senior lecturer in Geography, School of Applied Sciences. Centre for Spatial, Environmental and Cultural Politics, Centre for Transforming Sexuality and Gender. His current research concentrates on the geographies of the GBQ men’s Bear subculture.
https://research.brighton.ac.uk/en/persons/nicholas-mcglynn

【Programs】
17:00~17:05 Start: Introduction of the Speaker
17:05~18:05 Lecture by Dr. Nicholas McGlynn and Q&A Session
18:05~18:20 Break times
18:20~19:20 Graduate Students’ Presentations
(Sayaka MIYAUCHI/Shanshan OUYANG)
19:00~20:00 General Discussion

【主催】
立命館大学大学院先端総合学術研究科・院生プロジェクト「SOGI 研究会」

2023年度 SOGI研究会 公開研究会
「プライドパレードをめぐる議論と戦略の変遷」

2023年度SOGI研究会 公開企画

【日時】
2024年2月 20日(火)13:00~16:00

【参加方法】
入退室自由、事前申し込み不要

【場所】
Microsoft Teams
ここをクリックして参加してください

会議 ID: 466 904 257 120
パスコード: PUX6gF

【講師】
斉藤巧弥 (札幌国際大学観光学部観光ビジネス学科)

【プログラム】

12:30 Teams開場

13:00~13:05 開始:挨拶、研究会の主旨、先生の紹介

13:05~14:05 斉藤先生の講演

14:05~14:25 質問時間

14:25~14:35 休憩

14:35~15:00 院生発表(OUYANG)

15:00~16:00 総合ディスカッション

【主催】
立命館大学大学院先端総合学術研究科・院生プロジェクト「SOGI 研究会」

【お問い合わせ】
gr0371ri@ed.ritsumei.ac.jp(OUYANG)

成果及び今後の課題

 今年度は、SOGIはどのように社会運動論、コミュニティ論、メディア論で論じられているのかという課題を中心に、日本だけではなく、英国や中南米の研究も学習することができた。また、公開研究会を通じて国際的な議論や当事者の経験の多様さへの理解も深めることができた。今後、エスニシティ論を視野に入れた研究会活動をしていくことを望んでいる。

構成メンバー

OUYANG Shanshan
QU Honglin
TAN Lacheng
宮内 沙也佳
勝又 栄政
田場 太基

活動歴

2022年度の活動はコチラ
2021年度の活動はコチラ
2020年度の活動はコチラ
2019年度の活動はコチラ

家庭内・親族間等における人権問題研究会(2023年度)

院生代表者

  • 中井 良平

教員責任者

  • 立岩 真也

概要

 十分な対策が行われているかは別として、学校や職場といった場所におけるいじめ等の問題に対しては、厳しい目が向けられるようになっている。他方、家庭などにおいて近しい関係にある者同士の間に起こった被害・加害等では、外部の第三者による評価が困難なこと、職場や学校といった公共にも開かれている場所と異なり、閉鎖性が高いことなどから、被害にあった者がより声をあげづらく、声をあげても適切に受け取られない、といった事態が起こっていることが考えられる。また、法によっても規定され残存する家長制の影響も受け、家族・親族間においては序列が存在し、その上位にいる者から下位の者に対しての力の行使が可能となっている。これらの事情が組み合わさることで、公共の場においては人権の侵害等と捉えられる問題が、ひとたび家庭内や親族間の問題となると、「不適切な(行いをする)成員」に対する「正当な力の行使」などとして容認されるという事態がうまれ得る。家族・親族は、多くの者が生まれながらに最も身近に、永続的に所属する集団であり、その集団においての被害・疎外それ自体が、その者への強い人権侵害等となり得る。またそのような強固な基盤を持つ集団において少数派になった場合、他の成員に問題となっている状況の変更を訴え、実現させることは極めて困難である。外部への被害の訴えが困難であることと上記事情により、被害にあった者は孤立することになる。本プロジェクトでは、インタビュー調査を主軸に据え、家族や親族間での被害・加害やそこから立ち直ろうとする営み、それを阻害する要因などに着目することで、「家」において権力がどのように作動し、弱い立場の成員へ影響していくのかを考察する。

活動内容

今年度は、「女性参政権を活かす会」共同代表などとして長く女性運動に携わり、現在も家制度に関わる訴訟をおこなっている富澤由子氏にお話を伺うとともに、2月には講演をおこなっていただいた。また、富澤氏の訴訟を傍聴し、同じく傍聴に参加していた、富澤氏と一緒に活動をおこなってきた方々にもお話を聞くことができた。2月の講演の様子は文字起こしされ、公開される予定である。また今年度は『家族性分業論前哨』(2011, 立岩・村上)の輪読をおこなった。

成果及び今後の課題

成果:
長年にわたり、多くの観点からの問題提起をおこなってきた富澤氏にお話を聞き・記録することができた。それは、富澤氏の経験や問題意識、運動が、時代のどのような影響を受け、その働きかけが社会にどのような影響を与えたのかについての記録の一端となるだろう。また富澤氏の経験や運動の変遷と、それぞれの時代の社会についての考察を併置させることで、家や女性を巡り、社会がどのように変化をしてきたのか、また相変わらずのままであるのかについての考察が可能になるだろう。
今後の課題:
居住地域が分散していることにより、メンバーが集まる場がオンラインに限られている。調査に参加したくても、居住地の近くでなければ難しい。今年度は、当事者の方にお話を聞くと同時に、オンラインで講演していただき、遠隔地のメンバーが直接お話を聞く機会を設ける試みをおこなった。限られた予算で共同での調査を行うために、どのような方法があるのか、今後も検討していきたい。

構成メンバー

中井 良平
勝又 栄政
福冨(山本)雅美
戸田真里

活動歴

2021年度の活動はコチラ

ゲーム研究基礎文献講読会(2023年度)

院生代表者

  • 平田 清音 

教員責任者

  • MARTIN ROTH

概要

本研究プロジェクトでは、ゲーム研究における基礎文献の読解と共有を主軸に、各参加者の知識の向上を目指すものである。ゲーム研究における基礎文献を取り上げ、各参加者は指定された資料の特定範囲を担当し、定期的に開催する研究会で他の参加者に対して内容の発表とディスカッションを行う。これらの研究会を踏まえて、年に2回ほどゲーム研究者を講師として招待し、取り扱った資料に関して講演や議論を行う。
これらの研究会を実施することで、各々のゲーム研究に対する知識の向上と、領域として日の浅いゲーム研究で基礎文献についての知識共有につながり、ゲーム研究の更なる発展に寄与できる。

活動内容

第一回:顔合わせと今後の予定相談
開催日:2023年7月1日
開催場所:Zoom
内容:お互いの自己紹介と今後扱う文献や招聘する講師についての相談を実施。

第二回:「インタラクティビティ : 定義・理論・論点」購読会
開催日:2023年8月4日
開催場所:究論館プレゼンテーションルーム
内容:担当者が作成したレジュメを基にしたディスカッションを実施。吉田先生の講演会に先駆けて、インタラクティビティについてディスカッションを行い、疑問点などの共有を行った。

第三回:『キリギリスの哲学ーゲームプレイと理想の人生』購読会①
開催日:2023年8月31日
開催場所:究論館プレゼンテーションルーム
内容:担当者が作成したレジュメを基にしたディスカッション。第一章から第六章までを、担当者が要約。各自が持ち寄った疑問点を中心にディスカッションを行った。

第四回:吉田寛先生講演会
開催日:2023年9月29日
開催場所:究論館プレゼンテーションルーム
内容:東京大学の吉田寛先生を講師として招聘した。「インタラクティビティ : 定義・理論・論点」とご自身の研究について講演をしていただき、その後講演の内容についてのディスカッションを参加者全員で行った。

第五回:『キリギリスの哲学ーゲームプレイと理想の人生』購読会②
開催日:2023年10月29日
開催場所:究論館プレゼンテーションルーム
内容:担当者が作成したレジュメを基にしたディスカッション。第七章から第十二章までを、担当者が要約。各自が持ち寄った疑問点を中心にディスカッションを行った。

第六回:『キリギリスの哲学ーゲームプレイと理想の人生』購読会③
開催日:2023年12月9日
開催場所:究論館プレゼンテーションルーム
内容:担当者が作成したレジュメを基にしたディスカッション。第十三章から付論2までを、担当者が要約。各自が持ち寄った疑問点を中心にディスカッションを行った。

第七回:榊祐一先生講演会
開催日:2024年1月13日
開催場所:Zoom
内容:南臺科技大學の榊祐一先生を講師として招聘した。『キリギリスの哲学ーゲームプレイと理想の人生』についての講演をしていただき、その後文献の内容について、事前の研究会で上がった疑問点を中心にディスカッションを参加者全員で行った。

成果及び今後の課題

 本研究会を通して、ゲーム研究に関する重要な概念である「インタラクティビティ」についてメンバーがそれぞれ理解を深めることができた。そして、ビデオゲームの定義を試みた『キリギリスの哲学』を読解することで、そもそもビデオゲームをどのように理解し、論じることができるのかを学ぶことができた。今後の課題としては、参加メンバーそれぞれの関心の違いによって講読する書籍の選定が難航したことと、そもそもメンバー間で知っているゲームと知らないゲームが異なり、具体例であるゲーム作品にまでディスカッションが及ばず、抽象的な内容の読解が中心となった点が挙げられる。

構成メンバー

平田 清音
木村 亮太
髙松 美紀
Moon Jhee
間宮 琴子
TONG Haorui
松本 一織

Public & Inclusion Research Project(2023年度)

院生代表者

  • 新山 大河

教員責任者

  • 立岩 真也

概要

■目的
本研究プロジェクトの目的は、所属メンバーがプロジェクトにおける活動を通じて、質的社会調査の方法を体系立てて協働的に修得することにある。

■内容
本研究プロジェクトは、社会調査実習を実施することで、質的社会調査の方法をプロジェクトメンバーが修得する。またその研究成果を発信するため、社会調査報告書の刊行をおこなう。

■方法
昨年度は、岸政彦氏(京都大学教授)の社会調査「沖縄戦の生活史と戦後沖縄社会の構造変容」(科研:19K02056)へプロジェクトメンバーが参加し、社会調査実習をおこなった。今年度も同様に、沖縄県でフールドワークと沖縄戦体験者を対象とした生活史の聞き取りをおこなう予定である。
また聞き取りをおこなうことにより得られたデータを社会調査報告書としてまとめ、研究成果として刊行する。昨年度は2022年9月に社会調査実習を実施し、年度内に立命館大学国際言語文化研究所より『調査報告書 座間味の人生』の刊行をおこなった。2023年度の活動においても、夏ごろに社会調査実習をおこない、年度内に社会調査報告書を刊行する予定である。社会調査報告書は座間味村役場や、座間見小中学校、語り手の方々へお配りすることを予定している。

■意義
本研究プロジェクトでは、インフォーマントとの信頼関係の築き方や、立ち振る舞いなど、その特性上ノウハウが明文化しにくい質的社会調査の方法を体系的に修得する。以上を通じて、メンバー各人の論文執筆に必要な研究力を向上させる。
また、本研究プロジェクトでは、沖縄戦を経験された人びとの生活史を収集し、社会調査報告書として刊行する。国内における戦争体験者の高齢化は進んでおり、当事者の戦争体験とその後の生活史を少しでも多く書き残すことは、社会科学において喫緊の課題である。本研究プロジェクトでは、沖縄戦を体験し、その後の現代社会を生きる人びとの生活史をアクセスの可能な状態で残すことができる。

活動内容

昨年度は、岸政彦氏(京都大学教授)の社会調査「沖縄戦の生活史と戦後沖縄社会の構造変容」(科研研究課題: 19K02056)へプロジェクトメンバーが参加し、社会調査実習をおこなった。今年度も同様に、沖縄県座間味村でフールドワークと生活史の聞き取りをおこなった。

【社会調査実習】
開催日:2023年9月20~23日
場所:沖縄県 那覇市・座間味村

成果及び今後の課題

 社会調査実習では、「沖縄社会の戦後の継時的な構造変容」をテーマに、沖縄戦体験者がその後どう人生を形作っていったのかについて調査を行なった。各々の研究活動の基礎力を底上げすることを目的として、社会調査のノウハウを取得し、フィールドワークを体系的に学ぶことができた。
 研究成果としては、得られたデータをまとめた報告書を作成し、年度内に刊行する予定であった。しかし報告書の作成作業に時間を要しており、年度内の完成には至らなかった。報告書を完成させ、刊行することを今後の課題としたい。なお報告書は座間味村役場や、座間見小中学校、語り手の方々へお配りすることを予定している。

構成メンバー

新山大河
吉田光
柴田惇朗

活動歴

2022年度の活動はコチラ

「少数者」と教育(2023年度)

院生代表者

  • 種村 光太郎

教員責任者

  • 立岩 真也

概要

 本プロジェクトの指導教員である立岩真也は、科研費研究(基盤A)の成果発信として叢書を出版する。その中のテーマの一つに、「障害学生支援」というテーマがある。本院生プロジェクトは、その「障害学生支援」本の執筆を担当する院生らによって運営される。
 「障害学生支援」という分野では、従来「支援の在り方」や「制度の在り方」に注目した研究が多くなされてきた。その研究自体の意義は認めつつも、本研究会ではそのアプローチと異なる方針で研究を行っていく。それは「障害学生支援」の制度や場が自明視してきたこと、例えば「高等教育では障害者/健常者とを分けずに、共に学んでいくこと」「知的障害者が高等教育に進学することが困難」など、「社会的少数者が高等教育機関で学ぶ」というときの前提について問い返していく。その目標を達成していくために本院生プロジェクトの目的は3つある。

①「少数者と教育」に関する研究動向や歴史を把握、及び実態を調査し、その成果を発信していくことを通じて、叢書の出版、及び学術研究の発展に寄与できる実践力を身に付けること。
②「少数者と教育」に関わる研究を行う院生の共同研究を通じて、各自の研究能力を向上させること。
③ 研究目的に沿った研究者に講演をしてもらい、「社会的少数者と教育」を取り巻く課題について理解を深めていく。講演会の内容は録音・録画を行い、『遡航』に講演録を掲載する。

活動内容

立命館大学「少数者と教育」研究会 特別講演会

開催日時:2023年12月2日(土曜日)10:00-12:00

開催場所:オンライン開催(ZOOM)

講師:石川憲彦先生(精神科医)

講演テーマ:「就学闘争を振り返って——医療現場で感じたこと——」

対象者:本テーマにご関心のある皆さま

参加費:無料(事前登録制)

参加方法
:以下の申込フォームよりお申し込みください。
https://forms.gle/GqGsSsezmzaJG2nY8
申込締切:2023年12月1日(金曜日)10:00まで

情報保障について
テキストによる文字情報保障を予定しています。

合理的配慮について
上記情報保障以外の合理的配慮をご要望の際、視覚障害等の理由で申し込みフォームからの申込みが難しい場合、問い合わせ先までご連絡いただけますようよろしくお願いいたします。

問い合わせ先:「少数者と教育」研究会 事務局

メール
gr0529kp@ed.ritsumei.ac.jp (代表:種村光太郎宛て)

主催:「少数者と教育」研究会
共催:立命館大学生存学研究所

成果及び今後の課題

 本研究会の中心的テーマである「情報保障」は、主に聴覚障害者や視覚障害者に対して用いられる傾向があった。しかし、その「情報保障」の対象となってこなかった知的障害者や発達障害者などはどのような境遇に置かれていたのか、どのように権利保障が行われようとしてきたのか、その一端しか明らかになってこなかった。
 そのため2023年度は、「情報保障」を調べる前提となる障害者の学習環境について調べる必要があった。そのため、石川憲彦先生を講師に招聘し、「1970年代~80年代の知的・発達障害者たちは、どのような境遇に置かれていたのか、どのように権利保障が行われようとしてきたのかをお話いただいた。従来の情報保障の歴史的研究が視覚・聴覚障害に偏っていたことを考えれば、本研究会によって明らかになったことは今後の研究を行う上で基礎的研究となり、重要な研究成果であると言える。
 しかし、講演会にお招きする講師は、メンバーが途中加入する前より決めていたこともあり、途中参加メンバーの興味関心にダイレクトに関係する講師を招聘することができなかった。新年度、講師招聘を検討するにあたり、各々の研究活動や問題関心に直結する講師招聘を行えるよう、心がけていきたい。また、個々の研究相談も結局的に行っていき、本研究会メンバーが幅広い研究テーマに関心を持てるよう働きかけていきたい。

構成メンバー

種村 光太郎
山口 和紀
竹村 文子

「アート/クラフト」研究会(2023年度)

院生代表者

  • 柴田 惇朗

教員責任者

  • 小川 さやか

概要

 本研究会の目的は「アート/クラフト」の境界的事例の質的研究を用いて、制度の枠を超えた社会における創造性のあり方について研究し、その成果を学術論文として発表することである。
具体的な内容および実施方法は以下の通りである。本研究会では第38回民族藝術学会大会において「研究対象としての「おかんアート」 ——美学、社会学、人類学からの検討」(2022.04.17)と題した発表を行った。また、昨年度には追加調査及び査読論文の執筆を進めてきた。本年度は8月に民族藝術学会誌『arts/』にこれまでの調査と議論の成果を論文として投稿する予定である。
 本研究会の意義は学際的な研究領域の院生が集まり、共同研究を行う点である。これまでにも月例の研究会と調査を重ね、各専門分野後券をベースに活発な議論を行ってきた。本年度は当初からの目標であった論文投稿を実際に行う目処が立っており、そのプロセスで更に学術システムへの理解を深め、能力の研鑽が見込めると考えている。

活動内容

本年度はプロジェクトとしては会議を複数回実施し、論文投稿のためのリサーチや執筆状況の相互確認などを行った。

成果及び今後の課題

調査は当初予定していたものの、メンバーの予定などを鑑みて断念した。また、論文投稿自体も本年度中の投稿は目指さず、次年度8月頃に持ち越すことを決定した。

構成メンバー

柴田惇朗
藤本流位
坂本唯

活動歴

2022年度の活動はコチラ
2021年度の活動はコチラ

「障害者と労働」研究会(2023年度)

院生代表者

  • 栗川 治

教員責任者

  • 立岩 真也

概要

◆目的
本プロジェクトは、次の2つを目的とする。
①「障害者と労働」に関わる研究をおこなっている院生が、共同研究を通じて、各自の研究力を向上させる。
②各院生が「障害者と労働」に関する最先端の国内・国際的な研究動向を把握し、実態を調査し、その成果を集積・発信していくことを通じて、学術研究の発展に寄与できる実践力を培う。
◆方法・内容
上記の目的を達成するための方法として、次の内容の活動をおこなう。
①定例研究会の開催(月1回程度):各院生の研究経過、研究成果を持ち寄り、相互の批判・討論を通じて、各自および共同の研究の課題を明らかにしていく。
②研究成果報告会の実施(年度末):公開の研究成果報告会をおこない、1年間の本プロジェクトの実績を報告するとともに、国内外の最先端の研究者を招聘してシンポジウム(講演かい)を併せて開催し、今後のさらなる研究の進展を図る。
③生存学研究への参画:立命館大学生存学研究所の研究活動に積極的に参画し、障害学国際セミナー(東アジア障害学フォーラム)での研究発表・海外の研究者との交流を深めるとともに、日常的には生存学hpの「障害者と労働」のサイト(http://www.arsvi.com/d/w0105.htm)での資料集積・内容拡充を、本プロジェクトの課題に位置付けておこなっていく。
④学会・研究会、調査への派遣:「障害者と労働」に関する各種学会・研究会に参加する院生、およびインタビュー調査等に出張する院生に対して、旅費等を補助して、各自の研究活動を支援する。
⑤プロジェクト成果報告の発信:上記①~④の活動成果を随時報告書等にまとめ、生存学hpや『遡航』に掲載し、関係者から指導・助言を得る。
◆意義
本プロジェクトは、現代の日本と世界において重要なテーマである「障害者と労働」に関して、最先端の学際的・国際的な知見・情報を得つつ、個々の院生が独創的な研究を進めるとともに、その成果を先端総合学術研究科および生存学研究所の活動・媒体を通じて世界に発信し、この分野の学術研究の進展に寄与していく経験を積めるという意義をもつ。これは、「障害者と労働」に関する研究を志す大学院生が多数在学する本研究科(おもに公共領域)の特色を生かし、また、日本と東アジア、そして国際的な障害学研究の拠点である生存学研究所が本研究科ときわめて密接な関係にあるという条件に恵まれていることによって可能となっていることである。

活動内容

①定例研究会の開催:メーリングリストでの情報交換等を不定期におこなった。
②公開研究会の実施:立岩先生ご逝去後の混乱のなか、企画を立てることができなかった。
③生存学研究への参画:立命館大学生存学研究所主催の障害学国際セミナー2023(10月、ソウル)等に研究会メンバーが参画した。また、生存学HPに、研究会メンバーが各自の研究成果、文献等を掲載していった。但し、「障害者と労働」のカテゴリーでの整理はできなかった。
④学会・研究会、調査への派遣:研究会メンバーが、障害学会(9月、東京大学)等に参加し、研究成果を発表した。
⑤プロジェクト成果報告の発信:当研究会の活動状況等については、随時、生存学MLやHP等で報告、発信してきた。

成果及び今後の課題

 今年度は、研究会代表・栗川の個人的な事情や、指導教員である立岩先生の急逝により、月例会、公開研究会等の開催準備をおこなうことができず、会の活動を停滞させてしまった。次年度は、代表を交代するなど体制を一新して、研究会を再活性化させることが課題となる。

構成メンバー

栗川 治
有松 玲
宇津木 三徳
大木 えりか
大橋 一輝
國近 歩
鈴木 悠平
竹村 文子
種村 光太郎
田場 太基
中井 秀昭
中井 良平
兵頭 卓磨
宮本 敬太
山口 和紀

活動歴

2022年度の活動はコチラ
2021年度の活動はコチラ
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