映画・テレビドラマ映像分析研究会(2023年度)

院生代表者

  • 荒木 慎太郎

教員責任者

  • 竹中 悠美

概要

本研究プロジェクトは、映画と近年研究され始め活発に研究されるようになったテレビドラマに焦点を当てる。
映画とテレビドラマが相互に影響しながらどのように発展してきたのか、またテレビドラマが独自の価値を獲得し映画とは違うものとして成立していくのかを検討し、映像作品を脚本や監督・演出といった制作の面から分析する能力を向上させることを目的とする。
本研究会は映像作品を鑑賞し、ディスカッションを行うことが基本的な様式となる。多様な視点からディスカッションを行うことで、専門を超えて新たな気づきが生まれることに期待する。講師を招聘し、専門的な分野からの意見とご教授をいただくことで、映像作品を理論・実践の面から検討することも行う。ゲスト講師は映画美学と映画実践に精通する大阪大学名誉教授の上倉庸敬先生を予定し、制作分野など他のゲスト講師の方にも交渉中である。
映画の都市である京都は、歌舞伎などの大衆娯楽とも関係性が深い。映画もその始まりは劇場のひとつの演目であり、娯楽文化は鑑賞する環境変化の歴史でもある。テレビの登場と普及によってお茶の間を中心とした娯楽鑑賞が中心となり、かつて娯楽の中心であった映画館は減少し、大型化していく。小さな映画館の運営はコロナ禍によってさらに厳しいものとなるが、近年「コミュニティシネマ」など、新たな映画との関りや鑑賞の形が提案されている。映像作品を分析する能力を向上させるとともに、京都という劇場文化の残る都市の利を活かし、鑑賞の様式についても検討することで、映像文化についての見識を広めていく。現在、地域コミュニティーとシアターの新しい形について検討するために、京都芸術大学大学院芸術研究科准教授の今井隆介氏と西舞鶴のミニシネマを調査する計画がある。京都映画祭や大阪アジアン映画祭など、映画と劇場に触れることのできる映画祭への参加も検討する。
本研究会の意義は、映画とテレビドラマを、脚本や監督の作風といった制作の面から検討することである。加えて、見るという映像文化における鑑賞とその様式に注目することは、劇場・茶の間・個室・スマートフォンと個人視聴の性質を強めていく鑑賞環境とスクリーン、そのショットの関係など作品を分析し検討するための糸口になる。

活動内容

・第一回研究会
日時:2023年9月28日(木)16時~19時
場所:創志館408
内容:上倉庸敬先生(大阪大学名誉教授)を招聘し、デヴィット・ボードウェル『小津安二郎 映画の詩学』第三章の読書会を行った。継続して購読を行うために、整理を行いながら、第三章の精読を行った。

・京都映画祭「中島貞夫監督 追悼企画」鑑賞会
日時:2023年10月13日(金)13時20分~20時
場所:よしもと祇園花月劇場
内容:よしもと祇園花月劇場にて行われた京都映画祭に参加し、「中島貞夫監督 追悼企画」の『893愚連隊』『狂った野獣』『日本暗殺秘録』の鑑賞を行った。劇場という鑑賞環境と鑑賞の様式を体験することで、鑑賞環境やスクリーンの重要性を再認識することができた。

・第二回研究会
日時:2023年10月26日(木)16時~19時
場所:創志館408
内容:上倉庸敬先生(大阪大学名誉教授)を招聘し、デヴィット・ボードウェル『小津安二郎 映画の詩学』第四章の読書会を行った。ボードウェルの指摘する、小津作品のシュジェートとファーブラの組織化の原理について理解を深め、上倉先生にご教授をいただいた。

・第三回研究会
日時:2023年12月7日(木)16時~19時
場所:創志館412
内容:上倉庸敬先生(大阪大学名誉教授)を招聘し、デヴィット・ボードウェル『小津安二郎 映画の詩学』第五章の読書会を行った。ボードウェルの指摘する、小津作品の「Style 文体」の外在的規範・内在的規範を中心に理解を深め、上倉先生にご教授をいただいた。

・第四回研究会
日時:2023年12月21日(木)16時30分~19時
場所:創志館408
内容:イングマール・ベルイマン監督『仮面/ペルソナ』(1960)を鑑賞し、ディスカッションを行った。スーザン・ソンタクのペルソナ論を扱いながら、議論が展開された。

・第五回研究会
日時:2024年2月8日(木)16時~19時
場所:創志館312
内容:上倉庸敬先生(大阪大学名誉教授)を招聘し、デヴィット・ボードウェル『小津安二郎 映画の詩学』第六章の読書会を行った。ボードウェルの指摘する、小津作品の外在的規範・内在的規範を引き続き扱いながら、ボードウェルの述べる自由と秩序について理解を深め、上倉先生にご教授をいただいた。

成果及び今後の課題

 本研究会を通じて、読書会においてはデヴィット・ボードウェル『小津安二郎 映画の詩学』で論じられている映像論(小津論)について理解を深めることができた。映画の題材や主題、スジェートとファーブラ、スタイル(文体)など、ボードウェルの指摘する小津映画に対する理解を深めることで、映画作品を読み解く力を養うことができた。映像作品の鑑賞会においては、学内での作品鑑賞に加えて京都映画祭の上映に参加することができ、個人視聴とは異なる劇場での鑑賞の形態には、本来笑うはずのない場面で笑いが起こるなどの劇場という場の観客間で共有される特殊な見られ方があることが改めて分かった。読書会と作品鑑賞を行うことで、テクストと作品のヴィジュアルの双方を参照しながら映像理論の理解を深めることができた。
 京都映画祭の上映会に参加し、劇場という鑑賞環境やその観劇様式を調査することはできた。しかし、計画していた研究会としてコミュニティシネマを調査し、映画の上映と楽師によるピアノ伴奏という無声映画の観劇様式に触れ鑑賞環境について議論と検討を行うことはできなかった。
 メンバーと意見交換を行いながら、映画やテレビドラマという垣根にとらわれず、映像作品と映像理論についての理解を深めることを目的とし、一定の成果を得られたと考える。研究会の活動を通じて、メンバーそれぞれが自身の研究分野と映像文化の関係性を明確化して研究活動に取り組んでいくことで、研究会の質の向上が期待できるという今後の活動と取り組み方の気付きを得た。今後はメンバーの研究内容についても意見交換を行い、理解を深めながら、映画やテレビドラマといった映像作品についての理解を深め、実践も行えるように研究活動を行っていきたい。

構成メンバー

荒木慎太郎
西川秀伸
嶋津麻穂
宮内沙也佳

活動歴

2022年度の活動はコチラ

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