近現代芸術論研究会(2023年度)
院生代表者
- 高畑 和輝
教員責任者
- 竹中 悠美
概要
本研究会は、現代芸術・現代思想研究を背景とするメンバーによって近現代の芸術理論の文献講読と関連施設へのフィールド調査を通して、理解を深めるとともに、研究ネットワークを拡げること目的としている。本年はとりわけ「シュルレアリスム」思想の展開を、日本においての理論的支柱と位置づけられる瀧口修造(1903~1979)を中心に追っていく。具体的には、瀧口の著作の読解と瀧口研究の整理を中心に隔週での輪読会を行った上で、各メンバーの研究対象と瀧口の思想あるいは「シュルレアリスム」との関係性を研究し、9月の公開研究会において発表、討論を実施する。さらに、瀧口の常設展が置かれている富山県美術館へのフィールド調査を行う。本活動を通じ、現代音楽研究、前衛・現代芸術研究、現代思想研究を専門にするそれぞれのメンバーの知見を総合し議論を行うことで、未だ不十分であるとみなされている(秋元 2015)瀧口の芸術性、芸術活動、創作の学術的評価に寄与することができる。同時に、瀧口の思想、ひいてはシュルレアリスムの実践は本研究会のメンバーの各対象とも密接に関わっており、各人の今後の研究成果発表において、本研究の成果のさらなる発展が期待される。 参考文献■秋元裕子, 2015, 「瀧口修造研究・批評の分析:瀧口はどのように読まれてきたか(1)」『北海学園大学人文論集第58号』, 北海学園大学.
活動内容
第一回研究会
日時:2023年6月18日
場所:究論館プレゼンテーションルームA
内容:研究会の日程調整、講読文献の精査(シュルレアリスムの基本的文献を講読していくにあたり、まずは「瀧口修造の一九三〇年代:シュルレアリスムと日本」『美学64巻2号』(平芳幸浩、2013)に決定した。また、フィールド・ワーク先である富山県美術館への訪問日程のすりあわせをおこなった。
第二回研究会
日時:2023年7月8日
場所:ZOOM
内容:平芳幸浩、2013、「瀧口修造の一九三〇年代 : シュルレアリスムと日本」『美学』 64 巻, 2 号、p. 61-72 の講読。これをもとに院生メンバー同士での意見交換をおこなった。瀧口は、戦後現代芸術界のスポークスマンであるとともに1930年代においていち早く日本にシュルレアリスムの動向を紹介した論者として知られている。1930年代後半から瀧口がシュルレアリスムの日本における「独自性」を主張した背景を、先行研究では前衛美術弾圧や思想統制のなかでの保守への転向(彼は1941年に拘留も経験する)とみなされてきたが、平芳によれば1930年代後半以後、瀧口は実践者から理論的指導者への以降を見せており、さらにシュルレアリスムをイギリスロマン主義としたうえでその延長線上に松尾芭蕉の俳諧や世阿弥の能の幽玄性、あるいは利休の「さび」といった美意識に見出し再構築しようとしたとされる。院生メンバーの議論では、この観点から瀧口が戦後主導する「実験工房」のアーティストが主題とした「能」や「芭蕉」といったものに展開されると考えられた。
先端総合学術研究科院生プロジェクトスタートアップ報告会
日時:2024年7月22-23
場所:創思館カンファレンスホール
内容:スタートアップ報告会として研究会を紹介するポスターを作成し掲示した。これをもとに会場参加者と議論をおこなった。
第三回研究会
日時:2024年7月31日
場所:ZOOM
内容:秋元裕子、2022 、『瀧口修造研究―「影像人間」の系譜』、和泉出版 の講読。本書全体の目的を確認したうえで、序章の瀧口修造の先行研究を筆者が整理した部分を講読した。秋元は瀧口の評価軸として以下の四項を示した。① 戦前・戦後における前衛芸術の養護者としての評価 ② シュルレアリスムの理解・紹介・実践者 ③ 唯物論的観点、精神に対する物質の優位性を訴え、それに基づいた美学を示唆したことに対する評価 ④ 芸術における影像(イメージ)の重要性の主張 秋元はこうしたなかでこれまで議論の集中してきた「瀧口をシュルレアリスムのなかで評価すること」を一旦保留し、「瀧口が創造原理として重視した、想像力の系譜を浮き上がらせることが、作品分析のためには重要」(3頁)としていた。そのうえで、瀧口研究の動向と時代区分を確認し、議論をおこなった。
第四回研究会
日時:2023年9月9日
場所:ZOOM
内容:富山県美術館訪問の詳細日程の検討。その後、2件の文献を講読・議論をおこなった。
大谷省吾2018「「物質」をキーワードに瀧口修造と日本の前衛美術を考える」 展覧会「瀧口修造と彼が見つめた作家たち コレクションを中心とした小企画」20180610~0924(東京都国立近代美術館)
光田由里「瀧口修造の[物体] 接触・写真・幾何学」大阪大学、シンポジウム〈具体〉再考 第2回「1930年代の前衛」(20171203)における発表
富山県美術館フィールド調査
日時:2024年11月17日
内容:富山県美術館の常設展示である瀧口修造コレクションの調査を目的に訪問した。学芸員からの案内を受けることは叶わなかったが、瀧口を取り巻く様々なアーティストとのあいだの交流関係などをコレクション作品やオブジェを通して確認した。とくに、本美術館で2019年に行われた展覧会「瀧口修造/加納光於《海燕のセミオティク》」》の刊行資料をもとに、瀧口が実験工房を始め、戦後現代芸術界のスポークスマンとしての活躍の一側面を確認した。またその他の常設展(全4種)も見学し、議論をおこなった。
成果及び今後の課題
本研究会によって実施した講読会によって、瀧口修造の先行研究の動向を確認し、戦前・戦後の現代芸術界にいかなる影響を及ぼしたのか、またその背景として瀧口をどのような社会状況・思想的状況が取り巻いていたのかの理解を深めることができた。院生メンバーのなかから、北村、髙畑のように思想や現代音楽の側面から瀧口を照射した議論、藤本、川名、崔のように現代美術の領域からアプローチした議論、大橋のようなアウトサイダーアートや、特定コミュニティにおける相互関係二着目した議論が提出された。研究会の中で、瀧口が「シュルレアリスムをなぜ、またいかにして日本独自のものとして再構築しようとしたのか」、またフランスにおける差異とどのようなものが認められるかといった問題が浮上したが、これを明らかにし、成果として発表するに至らなかった。したがって、各メンバーの研究成果として本研究会の知見が活かされることを望みつつ、本研究会としても合同での成果発表等を目指していきたい。
構成メンバー
高畑和輝
川名祐実
北村公人
藤本流位