家庭内・親族間等における人権問題研究会(2023年度)

院生代表者

  • 中井 良平

教員責任者

  • 立岩 真也

概要

 十分な対策が行われているかは別として、学校や職場といった場所におけるいじめ等の問題に対しては、厳しい目が向けられるようになっている。他方、家庭などにおいて近しい関係にある者同士の間に起こった被害・加害等では、外部の第三者による評価が困難なこと、職場や学校といった公共にも開かれている場所と異なり、閉鎖性が高いことなどから、被害にあった者がより声をあげづらく、声をあげても適切に受け取られない、といった事態が起こっていることが考えられる。また、法によっても規定され残存する家長制の影響も受け、家族・親族間においては序列が存在し、その上位にいる者から下位の者に対しての力の行使が可能となっている。これらの事情が組み合わさることで、公共の場においては人権の侵害等と捉えられる問題が、ひとたび家庭内や親族間の問題となると、「不適切な(行いをする)成員」に対する「正当な力の行使」などとして容認されるという事態がうまれ得る。家族・親族は、多くの者が生まれながらに最も身近に、永続的に所属する集団であり、その集団においての被害・疎外それ自体が、その者への強い人権侵害等となり得る。またそのような強固な基盤を持つ集団において少数派になった場合、他の成員に問題となっている状況の変更を訴え、実現させることは極めて困難である。外部への被害の訴えが困難であることと上記事情により、被害にあった者は孤立することになる。本プロジェクトでは、インタビュー調査を主軸に据え、家族や親族間での被害・加害やそこから立ち直ろうとする営み、それを阻害する要因などに着目することで、「家」において権力がどのように作動し、弱い立場の成員へ影響していくのかを考察する。

活動内容

今年度は、「女性参政権を活かす会」共同代表などとして長く女性運動に携わり、現在も家制度に関わる訴訟をおこなっている富澤由子氏にお話を伺うとともに、2月には講演をおこなっていただいた。また、富澤氏の訴訟を傍聴し、同じく傍聴に参加していた、富澤氏と一緒に活動をおこなってきた方々にもお話を聞くことができた。2月の講演の様子は文字起こしされ、公開される予定である。また今年度は『家族性分業論前哨』(2011, 立岩・村上)の輪読をおこなった。

成果及び今後の課題

成果:
長年にわたり、多くの観点からの問題提起をおこなってきた富澤氏にお話を聞き・記録することができた。それは、富澤氏の経験や問題意識、運動が、時代のどのような影響を受け、その働きかけが社会にどのような影響を与えたのかについての記録の一端となるだろう。また富澤氏の経験や運動の変遷と、それぞれの時代の社会についての考察を併置させることで、家や女性を巡り、社会がどのように変化をしてきたのか、また相変わらずのままであるのかについての考察が可能になるだろう。
今後の課題:
居住地域が分散していることにより、メンバーが集まる場がオンラインに限られている。調査に参加したくても、居住地の近くでなければ難しい。今年度は、当事者の方にお話を聞くと同時に、オンラインで講演していただき、遠隔地のメンバーが直接お話を聞く機会を設ける試みをおこなった。限られた予算で共同での調査を行うために、どのような方法があるのか、今後も検討していきたい。

構成メンバー

中井 良平
勝又 栄政
福冨(山本)雅美
戸田真里

活動歴

2021年度の活動はコチラ

先端研 刊行物 学術誌 プロモーションビデオ