incurable研究会(2023年度)

院生代表者

  • 中井 良平

教員責任者

  • 後藤 基行

概要

 本研究プロジェクトの目的は、「論争中の病」や「MUS」などと見做されてしまう病・障害・症状を有している人や、気象疾患・慢性疾患を患う人など、医療や福祉の制度に十分にアクセスできていないと考えられる人々が、生存し/生活を送るために必要な支援等を、当事者の視点から明らかにすることである。
上記の人々の置かれた状態は、医療者にもよく知られておらず、診断までに時間を要することが多い。さらに診断されても有効な治療法はなく/少なく、支援制度等についても不十分なものにとどまっていると考えられる。加えて、現時点での生物医学的検査ではで明確に説明できず、診断がつかないために、医療機関をさまよい続ける病者も少なくない。
 現在の医療制度は、病名が何らかのかたちで確定されることを前提に設定されており、これら当事者は、医療や福祉のバックアップを受けられないまま、制度のすき間に置かれている可能性がある。当事者の置かれた状況についても、病名と紐づいた調査や統計が存在しないため、社会的な認知がほとんどなされていない現状がある。
 当事者や支援者が置かれた状況の一端について、インタビュー調査を通じて明らかにし、当事者らのニーズを丹念に拾い上げていきたい。そのような人々の生存・生活のために何が不足し、何が必要とされているのかを考察すると同時に、現行の制度にどのような構造的課題があるのかを考えていきたい。

活動内容

今年度は、『薬害とは何か──新しい薬害の社会学』(2023, 本郷・佐藤編)を講読文献とし、研究会で輪読しながら日本における薬害の歴史や当事者の経験について理解を深めた。また2月には同著の筆者・編者の一人である本郷正武氏をお招きし、立命館大学生存学研究所共催で講演会をハイブリッドでおこなった。同講演会には30名以上の参加があり、活発に意見交換が行われた。

成果及び今後の課題

成果:
薬害について、原因などが明らかでない症状・障害が薬害とみなされていくという過程や、被害への対応が行われる範囲の線引きなどについて見ていくことで、病や障害が論争中であることについての学びを得ることができた。同時に、この研究会で問題としている病者らの医療等へのアクセスの困難やスティグマについても、当事者が置かれた状況の厳しさを知ることになった。
今後の課題:
上記の様に、今年度も研究会として有意義な活動が行えたと評価しているが、他方、研究会発足時の大きな目的の一である当事者への調査は、十分には進められていない。その間に、主要メンバーの入れ替わりや研究計画の変更があった。単年の活動計画とは別に、研究会を継続させながら研究成果を蓄積していくことがどのように可能であるのかを、メンバーであらためて考えていきたい。

    構成メンバー

    中井良平
    栗川治
    戸田真里

    活動歴

    2022年度の活動はコチラ
    2021年度の活動はコチラ

    先端研 刊行物 学術誌 プロモーションビデオ